ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
[5183166hit]

■それは宣誓
まだ夜の闇から開放されていない、10月のある日曜日の早朝5時。

某小学校の前に主に中年男性約10人が並んで座っており、その末尾に僕がいた。へへっ。おいら怪しいもんじゃないよ。おいらベロってんだ。

何が目的で…。それは、息子・タク(6才)の幼稚園運動会の場所取りのためであった。幼稚園は狭いので近所の小学校を借りてやっているのだ。10月だというのにばんばん蚊が飛んできて刺されまくる。

何故ここまでして場所取りにこだわるのか。年長なので幼稚園最後の運動会だし、更にタクは

「はじめのことば」

という、すなわち選手宣誓をやるんである。何が何でもナイスなポジションをゲットしなければならなかった。3時間ほど待ってようやく門が開き、首尾良く場所取り完了。すぐさま家に戻ると、弁当と格闘中の嫁や娘・R(8才)と栃木から来ている母より一足先に、タクを連れてもう一度学校の校庭に戻った。

開始前に「はじめのことば」の練習をするからちょっと早く来てね、と先生に言われていたからである。道すがら

「タク、ドキドキしてないかい?」

と聞いてみたら

「してない」

なかなか肝が据わっている。学校に戻ると朝礼台の前にタクの担任が立っていた。

「よし、いってこい」

「せんせえ〜」

タクは猛ダッシュで担任に飛び付いた後、マイクを持たされ朝礼台に昇って喋る。その様子をハラハラしながら見ていたが、噛むことなくスラスラと言えていて、拍子抜けするほど完璧だった。マイク越しのその声がなんとも可愛くてねえ…。先生達も「カワイイ!」と叫んでいて、なんかもうこれだけでお腹一杯になってしまった。

一発OKが出たタクはうへへへへと笑いながら僕の所に走って戻って来た。

「うん。完璧だ!」

「うへへへへ」

そのうち嫁と娘・R(8才)、そして僕の母が来てゴザに座る。開会の時間が来ていよいよ運動会開会式が始まった。進行役がタクの出番を告げる。

「はじめのことば。メメクラゲ組。梶林タクゾウ君」

「はい!」

うわー!始まるぞー!僕はデジカメ、嫁はビデオを片手に一瞬たりとも逃してなるものかとそれぞれ記録開始。しーんとした中、マイクを持ったタクが朝礼台を昇って行く。そして手を高く掲げて

タク
「これから、うんどうかいをはじめます。いっしょうけんめいがんばりますので、おうえんしてください。えんじだいひょう、梶林タクゾウ」

うわーん!もう大拍手だよもう。何百人という視線が集中する中、よくぞ堂々とやり切った!嫁なんかは僕よりも興奮してて、

「多分年少か年中のお父さんだと思うんだけど、タクを見て『年長はすげーな』って言ってたんだよ!」

「うん。ビシッと出来てたしな」

「『私の子です!』って言いたくてしょうがなかったよ!私が産みました!フロムマイ子宮!」

嫁、もう本日終了って感じのテンパリ具合であった。

もちろん選手宣誓だけでなく、うんこもれそうな凄い形相で走って行く姿や、なかなかカッコよく踊るよさこいソーランの姿などを、

「ああ、これで幼稚園最後なんだなあ…」

と噛み締めつつ応援していた。

全てのプログラムが終わり、解散。すぐには帰らず、友達とじゃれ合ったりしているタクだったが、先生の前に来ると急にモジモジし始め、僕に向かって

「パパ、先生と一緒に写真撮りたい」

選手宣誓では堂々としてたくせにこんなとこで緊張してどうする。僕が先生にお願いすると

「たっくーん、よく頑張ったねー」

と、僕が羨ましくなるぐらいのとびきりの笑顔をタクに向けてくれた。ウチのようなお調子者息子に晴れの舞台を与えてくれてありがとうございます。

選手宣誓で始まり感謝先生で終わる運動会であった。

クリックしてね!←これだけでもいいので押してね。

[5]続きを読む

10月26日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る