ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
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■メイキッポッシボーウィズ「かのん」
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音楽が流れていた。

「これ、なんというおうた?」

娘・Rが曲名を尋ねる。

「えーと…ヘルペスじゃなくて…」

曖昧な記憶の僕が答えられずにいると

「パッヘルベルのカノンよ」

と嫁が答えた。

「そうそう。ぱぱぱぱっへるべるのカノン」

思いきり噛んでしまった。

「ママはこの曲が大好きなの。もしパパがRちゃんを『R』って名前をつけなければ私が『かのん』って名前にしたかったわ」

「えー!」

「えー!」

驚く僕とR。Rの名前は、僕が超気に入っていた近所の美少女の名前をそのまんまいただいた。当時僕はこれだけは絶対譲らず、嫁もそれでよしとしていたので嫁が考えていた案なんて今初めて聞いた。

「しかし…かのんって…源氏名じゃないんだから」

それはいわゆるDQNネームってやつじゃないのかいと異を唱えたところ

「Rちゃん、『かのん』でもよかったなー」

「えー!なんでよ!」

当の本人もまんざらではない様子。名付け親の僕の立場が。

だって『R』っていっぱいいるけど『かのん』ってあんまりいないんだもん」

そりゃそうだけど…

「今度の合コン、なんて子が来るの?」

「えーと、かのんちゃん」

ってシチュエイションだったら、「ヨシエ」や「ミツコ」等と聞かされたときより「かのん」の方が断然可愛い子が来ると期待してしまう。すなわち「かのん」として生きて行くには何かと求められるハードルが高いのである。更に

鈴木良江(68)
佐藤光子(75)

は普通にしっくりくるが、

山田かのん(65)

だと、おばあちゃんがゴスロリ着ているような、白いメリーさんみたいな無理目の字面なんである。だから「R」は平凡な名前だが平凡が故にプレッシャーをかけられることなく生きていけるのである…と正当性を主張しても意味ないだろうなあ。

それはそれとして、嫁がパッヘルベルのカノンが好きだったことも「かのん」と名付けたかったことも初耳であった。これだけ長い付き合いだったのに、嫁の好みの音楽や名前を聞き出すことが全くなかったなんて…。

思い返せば僕は中学生ぐらいから相当な洋楽オタクで、自分の好みの音楽は自分で探すぜ、みたいな気負いがあり、他人のおすすめなど聞こうとも思わなかった。

だから嫁とおデートをする時もよくレコード屋のハシゴに付き合わせていたし、その時も僕が聴きたい音楽を探すだけであり、また僕の音楽の好みを話すことはあっても嫁の好みなんて一度も聞いたことがなかった。

嫁は音楽なら何でも聴くというスタンスだった一方で、僕は嫁が聞いていたCDを嫁の部屋で何度か見たことがあったが全く聴こうとも思わなかった。

また、Rの名付けの時も、美少女Rちゃんの名前を付けたいがためにその理論武装として名付けについて調べまくったため、他の人の意見など「フン」という態度であった。

長い付き合いとはいえ、音楽の好みひとつ知らなかったんだなあ…ということを反省した。ただ一緒に暮らしているだけで分かり合えるなんて大間違いだ。もっと自主的に近付いて知り合わなければならぬ。

そんなわけでまず第一歩として肉体的にお尻とお尻を合わせて尻合わなければならぬ、と思い夜這いしたら

「やだ」

思いっきり断られた。

そういえば嫁の好みのちんこも聞いたことがなかったなあ。

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