ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■『プリウス』のユーザーを喜ばせた「ガソリンタンク」
『ハイブリッド』(木野龍逸著・文春新書)より。

(ハイブリッド車『プリウス』をわずか2年間で開発したトヨタの技術者たちへの取材をまとめた新書から。文中の和田さんは当時の代表取締役副社長。藤井さんはBRVF(ビジネス・リフォーム・ビークル・フューエルエコノミー)室長(当時のハイブリッドシステムの開発・検証部署)、内山田さんは、『プリウス』を生んだG21プロジェクトのリーダー)

【それは1996年の真夏ではなかったかと、藤井は言う。ある日、テストコースに来た和田が聞いてきた。
「なんだ、まだバッテリーを床下にしてるのか。どうするつもりだ」
「いろいろやってるんですが、どうも……」
「そんなの、トランクに入れて冷やせばいいじゃないか。だいたい床下なんかに置いてたら、水たまりに入った時にどうするんだ。水深30センチのところを走れるのか」
「走れますが」
「いや、新車のときは気密すればいいが、使ってるうちに絶対に漏るようになる。そんなものはダメだ。背中に積め」
「でも、充電のときに水素ガスが出ることがあるんです」
「そんなものはトランクからホースでもなんでも出して、外に抜けばいいんじゃないか」
 これを聞いた内山田は、
「なるほど、人間と同じか」
 と思った。電池が耐えられる温度は、人間の環境に近かったのだ。だったら人間と同じ環境にすればいい。乗っていて暑ければエアコンをつけるだろうし、寒ければヒーターをつける。その風を電池に送れば電池にもやさしい。
 これで電池は後席背もたれの後ろに積むことになった。商品性と信頼性の狭間で身動きがとれなくなっていた藤井は、和田のひと言で本当に助かったという。
 内山田も、和田に感心したことがある。内山田たちG21では、燃費が倍になるのなら、ガソリンタンクを半分にすれば室内が広くなるし、車重も軽くなると考えていた。その案を和田に提示すると、すぐに反応があった。
「バカもん、ダメだ。お客さんが何を喜ぶと思ってるんだ」
「リッター何キロ走るってことじゃないですか」
「そうじゃない。ガソリンスタンドに行くインターバルが伸びると燃費がいいのがわかるんだ。ワンチャージの走行距離が長くなれば絶対に喜ぶぞ。そんなこともわからんのか。タンクを小さくなんてことは絶対にやっちゃいかん!」
 内山田は、「これはすごく正しかった」と言う。プリウスを発売してから集まってくるユーザーの声の中に、
「今まで二週間に一度の給油だったのが、一カ月に一度になりました」
 という感想が多くあった。大衆車を数多く手がけた和田ならではの一打だった。】

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 初代プリウスの発売は、1997年12月。当時は「燃費はいいけどパワーがなくてスピードが出ない」などと言われていましたが、いまや、「環境にやさしい、経済的な車」の代表として、世界中で売れまくっています。
 2009年5月18日に発売された「3代目プリウス」も受注殺到で、納期は半年待ちくらいだとか。
 妻が「2代目プリウス」にずっと乗っていることもあり、僕にとっても馴染み深い「プリウス」なのですが、この本を読んでみると「まったく新しいハイブリッドシステムの開発」からはじめた「プリウス」は、難産の末にようやく生まれたのだということがよくわかります。
 「初代」のあまりにタイトな開発スケジュールをみると、「こんな直前までトラブルが出ていた新しいシステムの車を、よく買う人がいたなあ」と思ってしまったくらいでした。

 この文章中に出てくる、和田副社長(当時)は、若手技術者たちから親しみを込めて「大係長」と呼ばれていたほど、現場に頻繁に顔を出し、技術者たちとコミュニケーションをとっていた方だそうですが、これを読むと、和田さんは「ユーザーの気持ち」をすごく理解していたのだなあ、と感じます。
 技術者というのは、どうしても「技術によって、完璧を目指したい」とか「目に見える変化を見せたい」という気持ちになりがちなものなのでしょう。
 電池の話も興味深かったのですが、ユーザーとして印象的だったのは、プリウスのガソリンタンクの話です。

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06月11日(木)
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