ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■通信カラオケの楽曲は、誰がどこでどうやって作っているのか?
『カラオケ秘史』(烏賀陽弘道著・新潮新書)より。

(「カラオケ音楽」の制作現場について)

【カラオケ音楽を聞いたことがない、という人は少ないだろう。が、あの音楽は誰がどこでどうやって作っているのか。そんなことを不思議に思ったことのある人は、ほとんどいないのではないだろうか。
 一番よくある誤解は「歌手がレコーディングをするときに、歌抜きのバック演奏だけを録音しておく。それをレコード会社がカラオケ会社に提供している」という「回答」だ。実際にそうした「歌抜き、伴奏だけのカラオケバージョン」がボーナストラック(おまけ)として収録されているCDもごく普通に店頭に並んでいるので、そう誤解されるのも無理はない。が、本書をここまで読んだ人は、それが誤解であることにすでにお気づきだろう。
 前の章で述べた通り、現行の通信カラオケでは、光ファイバーやADSLよりはるかに通信速度の遅いアナログ電話回線で楽曲を送信できるよう、楽譜データだけを「MIDI」というコンピュータの「言語」に「翻訳」し、通信データを小さくしてから電話回線に乗せている。つまりどこかで誰かが楽曲をパソコンでMIDIに変換するという作業をしている、ということだ(2008年3月現在、音楽を自動的にMIDIに変換するソフトウェアは存在するが、まだカラオケ産業の制作現場に普及するほどの性能ではない)。
 カラオケは音楽を売る宣伝にもなるのだから、きっとレコード会社がMIDIデータか、せめて楽譜くらいはカラオケ会社に提供するのだろう。カラオケ会社はMIDIデータをカラオケ用に加工したり、譜面を見ながらMIDIデータ化したりしてカラオケ音楽を生産していくのだろう。筆者もそんなふうに予想していた。
 では、実際はどうなのか。カラオケ音楽制作の最前線を取材したい。筆者は大手カラオケメーカーである「第一興商」にそう依頼してみた。

 細かい経過は省略するが、何人かの紹介を経て、結局筆者は東京駅から1時間半高速バスに揺られ、茨城県つくば市に向かうことになった。指定されたバス亭でおりると、そこは幹線道路沿いに公園と県営住宅が広がる、夕暮れの住宅街。どこにも工場や作業場はおろか、オフィスらしきものすら見えない。
 バス停で待っていると、短髪痩身の青年は迎えに来た。電話で約束していた直井未明(1973〜)だった。
「(カラオケの打ち込みは)孤独な仕事なんです。わが家にはあまり来客がないものですから、お客さんはうれしいです。遊牧民が羊をつぶして客を歓迎する気持ちがわかりますね」
 何と、カラオケ音楽制作の「工場」は、直井の自宅マンションだった。直井は、リビングで筆者を和菓子と日本茶で丁寧に歓待してくれたあと、隣室、六畳の日本間に案内してくれた。ここがカラオケ音楽の工房、直井の仕事部屋である。襖をはずした押し入れに、コンピューターやディスプレイ、モニタースピーカーやシンセサイザーが階段状に組み上げられ、まるで木工職人の作業台のようだ。
 直井はここで、レコード会社からカラオケ音源制作会社を経由して届けた原曲を聞きながら、ドラム、ベース、ピアノ、ギター、ボーカル、コーラスその他効果音と、すべての楽器パート別に耳で音程を聞き取り、コンピューターのキーボードを叩いて手作業でリズムやメロディ、和音をMIDI信号に入力していく。
 つまり楽器の音符を一音一音「耳コピー」して、パソコンにMIDIデータを手で「打ち込んで」いくのだ。
 実は、こうした作業をしているのは直井一人ではない。通信カラオケの音楽はすべて、直井のようなオペレーターがこつこつと耳ですべての楽器の音程を聞き取り、コンピュータにMIDI信号の形で打ち込んでつくられるのだ。すべて人間の音感と手作業が頼り。意外なことに、楽譜すらレコード会社は出さない。実に地味で、膨大な作業である。】

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 これを読むまでは、あのカラオケ音楽がこんなふうにして作られているとは想像もしていませんでした。僕もCDシングルによく収録されている「カラオケバージョン(歌抜きで録音したもの)」を加工して配信している」ものだとばかり思っていましたから。

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01月07日(水)
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