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活字中毒R。
by じっぽ
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■芥川賞作家・川上未映子さんが語る「今なぜ若い子にケータイ小説が受けるのか?」
『文藝春秋』2008年3月号(文藝春秋)の川上未映子さんへの「芥川賞受賞者インタビュー『家には本が一冊もなかった』」の一部です。

【インタビュアー:今後、どういう作品を書いていきたいですか。

川上未映子:私は人間に興味があるんです。今の私が、人間について語れるのは女性性を通してだったわけですけど、それが今後どうなっていくのか。それから私たちの認識を規定している言葉について知りたいという気持ちもあります。そもそも言葉は他者との関係性の中に発生したにもかかわらず、同時に言葉で意味や気持ちが伝わっているなんてのは全くの幻想かもしれません。でも哲学者のヴィトゲンシュタインが言ったように、そのコミュニケイションがそうした言語ゲームを超えて起爆力をもつ瞬間があるんじゃないかと私は信じてるんです。ってこれも既に言葉ですけれど(笑)。
 先日、社会学者の宮台真司さんが言っていたんですが、今なぜ若い子にケータイ小説が受けるかというと、彼女たちの人付き合いが刹那的だからだというんですね。彼女たちは週替りで相手を変える。でも、それはすれっからしだからではなく、ピュアすぎて傷つくことが怖いから、問題が起きたらすぐ別れてしまうんだと。ケータイ小説もそういう乗りなんですよ。「強姦された! 頑張れよと言われた。だから頑張る」みたいな(笑)。わかりやすいといえばわかりやすいけど、彼女たちはそういう表現にしかシンパシーを持てない。純文学が扱うような深い人間関係を照らす文章は、傷つくことが本当に怖いんですね。
 それを聞いて私が思ったのは、どうすれば彼女たちにも伝わる小説を書けるかということなんです。出来ないわけがないですよね。実際、村上春樹さんは出来ている。誰にでも伝わるテーマと書き方をしながら、読み終えたときには必ず読者の目盛りを3ミリ上げてくれる。名作って、やっぱりそういうものだと思います。

インタビュアー:村上さんの他に、現代作家で好きな人はいますか。

川上:文章が好きという意味では多和田葉子さん。海外では、カート・ボネガット、サリンジャー。柴田元幸さんが訳す翻訳小説のような無駄のない文章にも憧れるんです。ジュンパ・ラヒリも好きですね。

インタビュアー:今の30代の女性は、結婚や出産に後ろ向きと言われています。その理由は「他人とは共同生活を送れないから」とか「子供を育てる自信がないから」とか報じられていますが、同世代としてどう思いますか。

川上:私たちの世代は、産みたくないというよりも、「産む」ということについて考える時間が、図らずも長くなってしまったんですよね。昔は生理が来たら<子供>から<大人>になり、間もなく結婚・出産して<母親>になった。<大人>の期間はせいぜい12、3歳から22、3歳くらいの10年だった。ところが、今は結婚するのが遅くなり、20年近くもある。2倍あるんですから、考えてしまう時間も悩みも増えるわけです。
 今の私の結論は、考える前に子供をつくらないと子供は出来ないということですね。この時代、避妊も追いつかないくらい燃え上がっているときでないと、子供はつくれないような気がします。私たちの世代、出来ちゃった婚しかないと思いますよ(笑)。

インタビュアー:川上さんも結婚されていますが。

川上:はい、と言いながら子供については私は出遅れた感があります(笑)。】

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 『乳と卵』で、第138回の芥川賞を受賞された川上未映子さん。川上さんは1976年生まれで現在31歳。受賞後の報道では、人目を引くルックスや歌手活動のことばかりが取り上げられていましたが、このインタビューを読むと、いろいろな現代的な問題を真面目に考えている人なのだということがよくわかります。
 僕は正直、「ケータイ小説」に関して、「まともな日本語が読めなくなった若者たちが、短いセンテンスで展開が速く、刺激的な内容の『小説』にとびついているだけだろ」と内心バカにしていたのです。でも、川上さんは(正確には宮台真司さんからの引用なのですけど)、若者たちが「いわゆる文学作品」を「読めない」のではなくて、「読むことによって自分が傷つくことを恐れている」のだと考えておられるのです。

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02月11日(月)
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