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活字中毒R。
by じっぽ
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■川上弘美さんが「専業主婦に挫折した理由」
川上:でも、私、団地の子ども会の仕事とか、幼稚園の学級委員とかどんどんやってたんですよ。仕事になっちゃうのはいいんです。もっと微妙なお付き合い、おうちに呼ばれたり、呼び返したりみたいなことがひどく苦手で。
阿川:主婦は社交が仕事ってとこがありますからね。
川上:そう、それ。で、苦手意識に押しひしがれたところから出てきたのが、デビュー作になった『神様』という短編なんです。】
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この対談を読むと、川上さんにとって、「小説家」というのは、まさに「天職」だったのだな、という気がします。というか、女子高の先生、しかも国語ならともかく、理科を教えていたことがあるなんて!どんな先生だったか、この対談を読んでいるとなんとなく想像はつきますし、生徒たちにとっては「なかなか面白いお姉さん」だったのではないかとも思うのですが、御本人にとっては、かなり辛い体験だったみたいです。
僕がこの「小説家になるまでの川上さんの職業遍歴」を読んで感じたのは、「どんな職業でも、外から見たイメージと、実際にその仕事についてから必要とされるスキルというのは、けっこう違うものなのだな」ということでした。「親身になる能力が足りない」なんていうのは、なんとなくわかるような気もするのですが、それはむしろ川上さんが「本当に親身になっていない」ということを受け入れられない、自分に嘘がつけない人だというだけではないか、とも思うんですけどね。
なかでも「専業主婦」というのは、「とりあえず家事をキチンとやって、家計をしっかり管理して、とにかく家の中のことをしっかりやればいい立場」だと僕は考えていたのですが、実際に「専業主婦体験」をしてみた川上さんにとっては、主婦こそ「社交が仕事」のように感じられたのだそうです。
もちろん、外界との付き合いを極力絶つようなやり方を貫いている人だっているのでしょうが、そういう家は、事件が起こったときに、ワイドショーで近所の人に「あの家の人は道で会っても挨拶もしない」なんて言われてしまいますし、子供に友達がいれば、普通は「子供の友達のお母さん」を無視するわけにはいかないはずです。
仕事として役割が決められている状況なら、他の人と接するのもそんなに苦痛じゃないけど、「付かず離れずみたいな微妙な関係を自分で距離を測りながら続けていく」というのがけっこう辛いというのは、僕にもなんとなくわかるんですよね。
たぶん、世の中には、「サービス業に疲れたから、専業主婦になりたい(あるいは、なってしまった)」っていう人も少なくないと思うのですが、実際は、「家のことだけやっていればいい」なんて簡単なものではないのです。まあ、こういうのって、どの職業でもそうなのかもしれません。
学校の先生も「授業をやって生徒と接しているだけじゃない」し、医者だって、「患者さんを診て病気の治療をしているだけじゃない」。結局、どんな職業も、最後にモノを言うのは「コミュニケーション能力」なのかもしれないな、と考えると、僕はもう暗澹たる気持ちにさいなまれるばかりです。
それにしても、川上さんのところに来た数々の「ヘンな手紙」のエピソードを読むと、小説家になれるような人というのは、こういう体験を呼び寄せる何かがあるのではないかと考えさせられますね。
02月06日(水)
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