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On the Production
by 井口健二
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■AALTO、燃えあがる女性記者たち、鯨のレストラン、沈黙の自叙伝
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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『AALTO』“Aalto”
1898年生まれで1976年に他界した北欧フィンランドの建築家
・デザイナー、アルヴァ・アアルトの生涯を記録映像と多く
の関係者の証言で綴ったドキュメンタリー。
建築家というと世界文化遺産にも登録されたフランスのル・
コルビジェやスペインのガウディらが思い浮かぶが、それに
勝るとも劣らない巨人が北欧にいた。
アルヴァ・アアルトと彼の最初の妻のアイノは文化財として
の建物と、その内に置かれる家具や食器までもデザインし、
しかもそれらは居住性と機能性とを兼ね備えたものだった。
そんな正に現代に生きる建築をデザインし、世に残した夫婦
の物語だ。
それにしても本作は実にオーソドックスな創りの人物ドキュ
メンタリーと言える。そこには夫妻の業績と共に様々な関係
者の証言によって夫妻の生活ぶりまで再現される。しかも少
しドラマティックな展開もあり、それを受ける愛情に溢れた
結末まで用意されている。
最近はなぜかドキュメンタリー映画を観る機会が多いが、正
直多少トリッキーな作品が多かった中で、こんなにも純粋に
人物を描き切った作品は見事と言える。それは監督を含めた
映画の関係者全員がアアロン夫妻を自国の誇りと思っている
からに他ならない。
そんな中で、フィンランドが対ソ戦略でナチスの支援を受け
たために、国家として戦後の国際連合の設立に加われなかっ
た影響で、アアロン自身はアメリカでの評価も高かったにも
拘らず国連ビルの設計から排除されたという下りには、同じ
敗戦国の人間として共鳴してしまうところもあった。
その一方で、次々に登場する夫妻が手掛けた建築物やその備
品の数々には、知識のない者が観ても素晴らしさを感じてし
まうものばかりで、それらの存在を知り得ただけでもこの作
品の価値を見出してしまうものだ。それを描き尽くした監督
の手腕も称賛したい。
近年の日本の公共建築では、やたらと植栽を誇示することで
自然との調和などと称するものを見受けるが、ここに描かれ
た建築こそが本物の自然調和と言えるもので、正に目から鱗
という感じの作品だった。
公開は10月13日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
有楽町、アップリンク吉祥寺、さらにシネ・リーブル梅田、
伏見ミリオン座他にて全国ロードショウとなる。

『燃えあがる女性記者たち』“Writing with Fire”
15世紀にポルトガル人によって構築されたとされるインドの
カースト制度、その中でバラモンからスードラまでの4階級
に属さない最下層民ダリット、その女性たちが興した新聞社
を巡るドキュメンタリー。
舞台はインド北部のウッタル・ブラデーシュ州。人口2億人
を擁し、インドで最も人口が多いこの州では、ヒンドゥー教
をバックボーンにする高いレヴェルの汚職や女性に対する暴
力、さらに社会的マイノリティに対する抑圧などの不正が溢
れている。
そんな場所で2002年に創刊された新聞 Khabar Lahariyaは女
性たちによって運営され、ジェンダーや教育問題を女性目線
で伝えてきた。その新聞がさらにウェブサイトによるディジ
タルメディアに変身を遂げようとしている。そんな過渡期の
女性記者たちの奮闘ぶりが描かれる。
背景とされる状況からは、当然それらと対決する女性記者た
ちの姿を予想するが、もちろんそれらを描いたシーンもあり
はするものの実際にはそこに深入りはせず、何というか比較
的マイルドな描き方で女性記者たちの現実的な姿が描かれて
いるものだ。

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07月02日(日)
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