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On the Production
by 井口健二
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■銀河鉄道の父、フェイブルマンズ、聖地には蜘蛛が巣を張る
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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『銀河鉄道の父』
明治29年の生まれ、昭和8年に37歳の若さで亡くなった童話
作家宮沢賢治の生涯を、賢治の理解者だった父親宮澤政次郎
の眼から描き、2017年下半期の直木賞に輝いた門井慶喜原作
小説の映画化。
おおよその賢治の生涯に関してはウィキペディアなどにも書
かれている通りのものではあるが、人造宝石の研究をするだ
の、新興宗教にかぶれるなどの一種の生活破綻者のようにも
描かれている。その辺が事情を知らないで観ると新鮮にも映
るかもしれない。
ただし、父親の眼からすると長男が37歳で夭逝し、その前に
は長女も24歳で亡くなってしまうというのは、次女、次男以
降の子供たちは天寿を全うしているとは言え、その悲しみは
いかばかりかと思ってしまうものだ。そんな悲しみが丁寧に
描かれた作品と言える。
正直に言って自分も娘と息子を持つ身としては、この父親の
姿には心を打たれてしまったものだ。
出演は役所広司、菅田将暉。他に森七菜、豊田裕大、坂井真
紀、田中泯らが脇を固めている。
監督は、2011年3月紹介『八日目の蝉』などの成島出、脚本
は2018年10月21日題名紹介『この道』などの坂口理子が担当
した。因に長女の臨終のシーンは史実の通りだが、賢治の臨
終では実際には父親は間に合わなかったそうで、ここは見事
なフィクションが盛り込まれている。
また音楽は、2017年9月24日題名紹介『ビジランテ』などの
海田庄吾が担当し、主題歌にはデュオになったいきものがた
りの書き下ろしで「STAR」という楽曲が彩を添えている。
実際の宮沢賢治はかなり毀誉褒貶のあった人のようで、近年
では童話作家というイメージとはかなり違った実像が知られ
てきている。そんな目で観ると多少物足りない感じもしてく
るが、本作は賢治の評伝ではなく、あくまで父親の物語な訳
で、それを役所が見事に演じ切った作品と言える。
その他、細部まで見事に再現された宮澤家のセットや三巻本
の「宮澤賢治全集」の装幀など時代考証も見事で、さらにそ
れらをランプの明かりなど、当時の光源に近付けて撮影した
テクニックも巧みと言えるものだ。因に照明と撮影は2018年
12月紹介『チワワちゃん』などの佐藤浩太と相馬大輔が担当
した。
公開は5月5日より、全国ロードショウとなる。

『フェイブルマンズ』“The Fabelmans”
スティーヴン・スピルバーグ監督による2021年『ウエスト・
サイド・ストーリー』以来の作品で、監督自身の自伝的要素
が強いとされる作品。
幼い頃に観た『地上最大のショウ』でのサーカス列車の衝突
脱線シーンがトラウマとなり、誕生日プレゼントでもらった
模型列車で衝突ばかりさせていた少年は、模型が壊れること
に業を煮やした両親から8oカメラを渡され、映像で再現す
ることで模型を壊さないで済むようになる。
やがて、電気技術者だった父親の仕事の関係で転居の多い家
族の記録撮影を任されるようになった少年は、高校では16o
カメラで生徒たちの課外活動を撮影し、それが講堂で上映さ
れるなど撮影や演出のテクニックを磨いて行く。そして遂に
ハリウッドのドアを叩くまでが描かれる。
それに並行して家庭内では、父親との確執や母親の不倫、そ
して両親の離婚など、これらはウィキペディアを参考にする
限りスピルバーグ本人の事実に則した物語が描かれているよ
うだ。それはある意味では、家族や夫婦の在り方なども描い
ているとも言える作品だ。
そんな物語を丁寧な演出で映像にしている。

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02月05日(日)
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