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On the Production
by 井口健二
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■郊外の鳥たち、アラビアンナイト 三千年の願い、屋根の上のバイオリン弾き物語、エッフェル塔〜創造者の愛〜
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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『郊外の鳥たち』“郊区的鸟/郊區的鳥”
2019年12月8日題名紹介『ロングデイズ・ジャーニーこの夜
の涯てへ』のビー・ガン監督など、中国第8世代と呼ばれる
映画人の中から登場し、2018年ロカルノ国際映画祭で注目を
浴びたというチウ・ション監督の長編デビュー作。
物語の舞台は再開発が進む都市の郊外。そこでは既存の建物
に傾斜が生じたとしてその原因究明のための測量調査が行わ
れている。その調査に従事する主人公は、ふと訪れた廃校の
小学校で、教室に残された机の中に自分と同じ名前の記され
た教科書を発見する。
一方その教科書の持ち主の少年は、放課後には数人の仲間と
共に雑木林で鳥の巣を落として卵を取ったり、瓦礫の積まれ
た工事現場でサヴァイヴァルゲームに興じていた。ところが
その仲間の1人が行方不明になり、女子の案内で彼の家に向
かうことにするが…。
そんなもしかしたら時代を隔てた二つの物語が、微妙に交錯
しながら展開されて行く。
出演は2012年12月紹介『ライフ・オブ・パイ』などのアン・
リー監督の実子で、監督の新作でブルース・リーの伝記映画
に主演しているというメイソン・リーと、アジアの映画界で
インディーズシーンのカリスマ女優とされるホアン・ルー。
さらに本作で本格的な映画デビューとなったドン・ジン。美
少年として話題のゴン・ズーハンなど、子役の多くは現地で
素人の子供たちが採用されている。
上記の紹介で時代を隔てたと書いたが、恐らくは過去と現在
の主人公がかなり奇妙な状況で交錯する。それは多分SF的
な解釈が求められるものだが、本作はそれをするにもかなり
の無理が生じるものだ。とは言うもののそれをするのが僕の
役目とも思える。
そんな訳でいろいろ手掛かりを求めると、まず映画の中では
「9月7日金曜日」というテロップが登場し、それが子供た
ちの行動に合わせてカレンダーのように何度か提示される。
そこでその年次を調べると、該当するのは1984、90、2001、
07、12年辺りとなるようだ。
一方、子供の1人がゲームボーイのような携帯ゲームをして
いるシーンがあり、それは1990年代と推定される。これに対
して大人の主人公はスマートフォンを使用しており、それは
2010年代ということだろう。これは正しく2008年の夏季北京
オリンピックを挟んだ中国の高度成長期と重なるものだ。
従って本作では、そんな2つの時代を描くことで高度成長期
に失われたものを追い求める物語とも言えそうだが、それを
ストレートではなく、かなり歪めて描くところが、今の中国
の姿と言えるのかもしれない。そう言えば2014年4月紹介の
『黒四角』もそんな感覚だったかな。
因に映画の中で建物の傾斜の原因は地下水脈の影響とされる
ものだが、1964年の東京オリンピック前後の高度成長期には
東京も地下水のくみ上げによる地盤沈下が問題になっていた
もので、その時代を記憶する者としてはこの展開は納得でき
るものだった。
ただその原因究明に、例えば子供たちの行動が絡んだりして
いたら、物語的にもう少し纏まりの良い展開になっていたよ
うな気もする。でも恐らく監督の意図はそこにはなかったの
だろう。そんな訳で、判り難いけれど何となく納得のいく作
品ではあった。
公開は3月18日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。

『アラビアンナイト 三千年の願い』
          “Three Thousand Years of Longing”

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01月15日(日)
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