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On the Production
by 井口健二
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■長崎の郵便配達、新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり
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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『長崎の郵便配達』
英国の作家ピーター・タウンゼンドが1984年に発表したノン
フィクション小説“The Postman of Nagasaki”に基づき、
作家の娘で女優のイザベラ・タウンゼンドが父親の足跡を辿
るドキュメンタリー。
作家は第2次大戦中の英国空軍の英雄的パイロットで、映画
『ローマの休日』のモティーフとも言われる王女マーガレッ
トとの熱愛で知られた人物。しかし王女との破局後に傷心を
癒すための世界一周の旅に出た旅人は、訪れた日本の長崎で
一人の被爆者と出会う。
その被爆者の名前は谷口稜曄。戦時下で14歳にして郵便局に
勤めた谷口は1945年8月9日午前11時02分、自転車に乗って
郵便物の配達中に原爆に遭遇する。そして背中一面に火傷を
負った少年は1年9ヶ月に亙りうつ伏せのまま治療を受け、
退院したのは被爆から3年7ヶ月後だったという。
そんな谷口をタウンゼンドは1978年と82年の2度に亙って取
材、特に82年には約6週間長崎に滞在して親交も深めたとの
こと。そしてその成果を上記の作品として1984年に英米で出
版した。その後タウンゼンドは1995年に死去。谷口も2017年
に他界している。
企画・監督・撮影は、2010年から複数本のヒューマンドキュ
メンタリーを発表している川瀬美香。本作は2014年に監督が
谷口氏に面会したことから企画化され、翌年にニューヨーク
で行われた核兵器不拡散条約再検討会議での谷口氏の講演な
どを収録して製作がスタート。
さらにタウンゼンド氏のパリの旧居にてイザベルさんとの面
会を撮影。その後にタウンゼンド氏の取材録音テープなども
発見されてイザベラさんの長崎訪問に繋げられている。それ
は上記の書籍を縦糸に、その後の谷口氏の活動などを横糸に
織りなされた見事な作品だ。
因に上記の書籍のタイトルに対して、本映画の英語題名が、
“The Postman from Nagasaki”となっているのも良い感覚
だった。
2022年6月の現在、北の大国が核兵器の使用をちらつかせつ
つ世界を恫喝している時代に、核兵器の廃絶を願う日本国民
の真実の声として世界に問うべき作品だろう。
公開は8月5日より、東京はシネスイッチ銀座、UPLINK吉祥
寺他にて全国ロードショウとなる。

『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』
          “Une saison (très) particulière”
2020年3月16日にCOVID-19のパンデミックによりパリ・オペ
ラ座が閉鎖、そこからの復活に向けたバレエ団員たちの姿を
追ったドキュメンタリー。
映画の始まりは2020年6月15日。3ヶ月に亙る閉鎖が解かれ
て、団員たちがレッスンに戻ってくるところから撮影は開始
される。ここで宣伝コピーにもある「1日休めば…」の言葉
には重みがある。
それはバレエダンサーに限らず、一般的な社会人にとっても
同じようなものだったかも知れないが、「集合住宅ではジャ
ンプの練習もままならなかった」という言葉には、共感以上
のものも感じてしまった。
これこそが、COVID-19によるパンデミックという新たな共通
認識の誕生と言えるのかもしれない。それはアメリカの同時
多発テロや東日本大震災とも違う、自分自身の内に根差すも
ののようにも感じられた。
そして映画では、自分自身を取り戻すための厳しいレッスン
や、さらにオペラ座の再開場を目指す高いハードルの演目へ
の挑戦へと続いて行くのだが…。そこに新たな試練や、未来
への希望も描かれる。
監督はソルボンヌ大学のパリ政治学院で学位を取得したとい

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06月05日(日)
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