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On the Production
by 井口健二
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■ひとくず、AI崩壊(眉村ちあきのすべて(仮)、スキャンダル、どこに出しても恥ずかしい人、人間の時間、地獄の黙示録ファイナルC、1917)
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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『ひとくず』
関西でテンアンツというプロダクションを主宰する上西雄大
の脚本、監督、主演で、児童虐待の現実を描いた作品。
2019年10月27日付 <JAPAN CONTENT SHOWCASE 2019>で紹介
した作品だが、日本公開が決まって再度試写が行われたので
改めて紹介する。
映画の開幕は薄暗いマンションの一室。ドアの外側にもカギ
が付けられ脱出不可能な部屋に、幼女が1人で母親を待って
いる。しかし母親は何日も留守らしく食べ物もなく、裂き開
かれたケチャップのチューブも舐め切ったような状態だ。
そこに突然窓ガラスが破られ男が入ってくる。男は室内を物
色して去ろうとするが、幼女の手の甲や体に残る火傷跡から
自らも体験した児童虐待の記憶が甦り、幼女を放っておけな
くなる。そこで食べ物を持って来るなどし始めるが…。
やがて母親が愛人と共に帰宅し男は彼らと対峙するが、それ
がとんでもない事態を招くことになってしまう。
出演は上西の他に、小南希良梨、古川藍、徳竹未夏。さらに
田中要次、木下ほうか、菅田俊、工藤俊作、谷しげる、堀田
眞三、城明男ら、錚々たるメムバーが脇を固めている。
また本作は、児童相談所で尽力する楠部知子医師の監修の許
に制作されたもの。上西が取材をした際に医師から言われた
「眼を向けてあげてください、救われる命があります」の言
葉を受けて製作された作品だ。
児童虐待を受けて育った子供が粗暴性を持つというのは追跡
研究によって明らかになっていることのようだが、本作の主
人公にも多分にそのような表現が施されている。そして幼女
の母親も愛を知らずに育った存在だ。そんな現実にも多々あ
りそうな物語が描かれる。
そして後半には少し意外な展開も用意されて映画を引っ張る
が、全体としてはそんな中にも微かかも知れないが希望が描
かれた作品で、結末はありきたりかも知れないがホッとする
気持ちで観終えられる作品だった。
因に本作は、2019年5月開催のニース国際映画祭で上西雄大
が主演男優賞と古川藍が助演女優賞を受賞。6月末に開催さ
れた熱海国際映画祭では最優秀監督賞と子役の小南希良梨が
最優秀俳優賞を受賞している。
さらに8月開催のマドリード国際映画祭で古川藍と徳竹未夏
が最優秀助演女優賞。9月開催の賢島映画祭で特別賞と主演
女優賞(小南希良梨)、12月開催のミラノ国際映画祭でベスト
フィルム賞と主演男優賞(上西雄大)を受賞した。
なお海外での上映題名は“KANEMASA”。上記の他にも海外の
映画祭での上映は続いているようだ。
確かに題材として観客の嗜好に沿わせるのが難しいかも知れ
ないし、僕自身も概要を読んだだけでは観るかどうか迷った
作品でもある。しかし現実を直視する意味でも観るべき作品
だし、マドリードで上映後にスタンディングオベーションが
起きたというのも頷ける作品だ。
そしてここからは再度鑑賞しての感想になるが、この手の作
品を再見することには覚悟がいる。正直に言って2度観たこ
とで評価の下がる作品も少なくはない。それは初見で感動し
た作品に多い感じもする。
しかし本作では最初の鑑賞時に抵抗があった分、2度目には
主人公らの心情に入り易く、感動が増す感じがした。実際に
は涙腺の決壊となってしまったものだ。1度観た人にはぜひ
とも2度目も観て欲しいと思う作品だ。
それによって、監督らの言いたかったことがよりしっかりと
理解できる思いもした。これはできるだけ多くの人に伝える
べき作品だ。

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01月12日(日)
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