ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■ディリリとパリの時間旅行(よこがお、無双の鉄拳、あなたの名前を呼べたなら、存在のない子供たち)
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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ディリリとパリの時間旅行』“Dilili à Paris”
2006年『アズールとアスマール』などのミッシェル・オスロ
監督による新作で、2018年アヌシー国際アニメーション映画
祭のオープニングを飾り、2019年セザール賞で長編アニメー
ション賞を受賞した作品。
19世紀から20世紀への変り目のパリを背景に、フランス領の
ニューカレドニアから現地の生活を再現する見世物の展示物
としてやってきた少女が、ベル・エポック華やかなパリの陰
に潜む巨大な陰謀に立ち向かう。
南太平洋に浮かぶフランス海外領土の島で先住民族カナック
の娘として生まれたディリリは、実は流刑地だった島に居た
女性活動家ルイーズ・ミシェルの教育を受け、フランス語を
習得していた。
そして海外での生活を夢見た少女は興行師たちの乗った客船
に密航し、偶然乗船していた伯爵夫人の助けも借りてパリに
やってくる。そこで昼間は見世物小屋で先住民族の暮し振り
を演じていた少女だったが…。
配達人でパリの隅々までを知り尽くした三輪車乗りの若者と
出会った彼女は、折しもパリを騒がす連続少女誘拐事件の謎
に挑むことになる。そこにオペラ座の歌手エマ・カルヴェな
ど様々な人物が係る。
その顔触れは、マリ・キュリー、ルイ・パスツール、ギュス
ターヴ・エッフェル。パブロ・ピカソ、アンリ・マティス、
アンリ・ルソー、エドガー・ドガ、クロード・モネ、ロート
レック、ルノワール、モディリアーニ。
ロダン、カミーユ・クローデル。エドモン・ロスタン、オス
カー・ワイルド、アンドレ・ジッド、メーテルリンク、コレ
ット。ラヴェル、ドビュッシー、エリック・サティ。サラ・
ベルナール、イサドラ・ダンカン。
さらにジョルジュ・クレマンソー、エドワード7世など…。
この他にも当時のパリにいたとされる100人以上のいろいろ
な分野の著名人たちが次々に登場し、陰謀に立ち向かうディ
リリらを助けてくれる。
そこには往時のパリの風景などと共に、ベル・エポックの様
子が見事なアニメーションで再現される。それはフランス人
には懐かしさのこみ上げるものだろうが、そうではない僕た
ちにも、憧れの極致という感じで描かれている作品だ。
主人公は邦題の「時間旅行」をするものではないが、観客を
そういう気分にはさせてくれる。
ディリリの声を担当したのは新人のプリュネル・シャルル=
アンブロン。対する若者役を担当したエンゾ・ラツィトは、
オーディション番組を勝ち抜いた歌手でもあるというプロの
声優のようだ。
そしてエマ・カルヴェ役には、フランス出身でウィーン国立
歌劇場にも招請され、さらにロンドン・コヴェントガーデン
での演技に対してはローレンス・オリヴィエ賞が与えられた
というソプラノ歌手ナタリー・デセイが起用されている。
登場する著名人の中にジュール・ヴェルヌがいないのは少し
残念だったが、舞台が1900年だとすると作家はすでに80歳を
超えており、さらに白内障なども患っていたそうだからこれ
は仕方ないかな。
その代わりに「ヴェルヌみたい」という台詞や、ヴェルヌの
著作を髣髴とさせる造形の乗り物などが出てくるのは、脚本
も手掛ける監督のリスペクトなのだろう。この描き方には嬉
しく感じるものがあった。
一方、事件を引き起こす集団に関してはフィクションとして
いるが、当時の社会にこのような風潮があったことは事実と
のこと。それは今の時代にも通じるかな。子供にも判り易い
冒険ドラマだが奥は深い、そんな趣向の作品だ。
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05月12日(日)
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