ID:47635
On the Production
by 井口健二
[459691hit]

■山(モンテ)、チャンブラにて(道草、シスターフッド、空の瞳とカタツムリ、翔んで埼玉、芳華、ヒトラーVS.ピカソ、L♡DK)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『山(モンテ)』“Monte”
2011年10月紹介『CUT』などのイラン出身アミール・ナデ
リ脚本、監督、編集、音響による2016年の作品。
舞台は中世イタリア。山に遮られて日差しのない山腹の村に
は墓地に十字架ばかりが並んでいる。そして今も幼子の埋葬
が行われている。その葬儀の後、村人たちは村を離れる準備
を始める。しかし葬儀を行った一家は頑なだった。
そして村には一家だけが取り残され、一家の主人は無け無し
の作物を麓の町に売りに行く。ところが町では彼の存在自体
が疎まれており、作物が売れる様子もないばかりか、追い返
されるように帰宅を余儀なくされる。
さらに町人は一家が山腹に住み続けること自体も禁止し、妻
と息子の家族も散り散りとなってしまう。それでも山腹に居
座った主人公は…! 荒涼とした風景の中で、社会や自然に
も見放された男の山に対峙する決意が描かれる。
出演は、2006年『ミッション・インポッシブル3』に出てい
たというアンドレア・サルトレッティ、2013年イタリア映画
祭で上映『南部のささやかな商売』などのクラウディア・ポ
テンツァ。他に若手のザッカーリア・ザンゲッリーニ、セバ
スティアン・エイサスらが脇を固めている。
『CUT』を日本人俳優を使って日本で撮影したナデリ監督
は、本作ではイタリア系の俳優を起用して全編をイタリアで
撮影している。それはイタリアン・ネオリアリスモをも想起
させる作品になっている。
その一方でナデリ監督は、本作では黒澤明監督を念頭に置い
て映画製作を行ったと語っているとのことで、確かに後半の
狂気を感じさせる主人公の姿は、黒澤作品を髣髴させるもの
にもなっている。
さらにその映像には、風や巨石の転がる音、それに山全体が
軋むような凄まじい音響がナデリ監督自身の手によって付け
られており、それがファンタスティックとも言える結末を呼
び込む。
その結末は、東洋人としては「列氏」の説話が思い浮かぶも
のだが、同様の話は聖書のマタイ伝第17章20節にも有るよう
だ。ただし「列氏」が書かれたのは紀元前5世紀頃と言われ
るから、東洋の方が歴史は古い。
そんな古くからある物語だが、それを長編映画として描くの
には、内容のシンプルさから普通では中々難しいと思わせる
ものだ。そんな物語をナデリ監督は、黒澤流の演出を織り込
むことで見事に克服したとも言える。
映画は、前半はまだしもドラマティックに展開されるが、後
半は正に狂気に取り憑かれた男の姿のみが描き尽されるもの
で、その力強さにも圧倒される作品だ。
公開は2月9日より、東京は三鷹市のアップリンク吉祥寺他
にて全国順次ロードショウとなる。

『チャンブラにて』“A Ciambra”
「イタリア映画祭2016」で上映された『地中海』という作品
で数多くの受賞に輝いたジョナス・カルピニャーノ監督が、
2017年のカンヌ国際映画祭で「Label Europa Cinemas」賞を
受賞した作品。
映画の舞台はイタリア南部のラブリア州レッジョ・カラブリ
ア県にあるコムーネ(共同体)のジョイア・タウロ。その町
でスラム化した街区のチャンブラには、定住したロマの人た
ちが暮らしている。
ロマ=ジプシーと言われると、流浪の旅を続けながら音楽や
踊りで日々の糧を得ている…、そんなイメージだったが。国
境や紛争などの影響もあって現代では定住している人たちも
多いようだ。
しかしその暮らしぶりは豊かではなく、また多くの迫害や差
別にも遭っている。そのため真面な職に就くことも叶わず、

[5]続きを読む

01月20日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る