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On the Production
by 井口健二
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■ヒューマンフロー(アリー、アメリカン、セルジオ&、MOST、キックス、マシュー・B、TAXi、愛と銃弾、まぼろしの、それだけが、この道)
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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ヒューマンフロー 大地漂流』“Human Flow”
2013年9月紹介『アイ・ウェイウェイは謝らない』では被写
体になっていた中華人民共和国の現代芸術家=艾未未が、自
らカメラを持って撮影、監督した世界の難民キャンプを巡る
ドキュメンタリー。
最初の画面は大海原を飛翔する白い鳥。その国境を持たない
自由な姿と裏腹に、眼下にはすし詰めの人々を乗せた難民船
が登場する。その船はトルコから地中海に浮かぶギリシャ領
のレスボス島を目指しているのだ。
本作の紹介記事では、このプロローグを作品の象徴として賞
賛している文章も見掛けたが、僕はこのような映像を今まで
何度見ただろうか? その既視感が問題の根深さを暗示し、
監督の真意はそこにあるようにも感じた。
作品は監督が世界23カ国、40箇所もの難民キャンプを訪ね、
状況の異なる各キャンプの問題を洗い出して行く。それは政
治や宗教などの原因は敢えて深く追及せず、原状そのものに
焦点を当てているところも見識のように感じる。
その中では、設営からすでに40年以上が経過し、キャンプの
中だけで独自の文化が誕生しているなどの話もあるが、一方
で教育が行き届かず、それが貧困と復讐心を呼び、ISの台
頭へと繋がる図式も描かれる。
さらには米墨国境の状況や、ミャンマーからタイ、バングラ
ディシュに流れるロヒンギャ、パキスタンのアフガン難民。
あるいは世界最大の難民キャンプとされるケニア・ダダーブ
に暮らす50万の人々など…。
実に様々な難民を取り巻く状況が描かれる。そこにはさらに
根深い問題を抱えているものもあるのだろうが。それも深く
は追及せず、敢えて現状の難民の置かれた環境などの問題が
描かれる。これもまた見識とよべる。
僕自身が過去に観た難民を描いた作品では、2010年11月紹介
『君を想って海をゆく』が印象に残るが、そこに描かれたフ
ランス・カレーの難民キャンプはすでになく、1万とも言わ
れる難民はホームレス化したそうだ。
このようなヨーロッパでの新たな難民事情も描かれる。それ
は各国の状況も反映するが、難民の置かれた環境のさらなる
悪化も懸念される。この点が監督の最も言いたかったことの
ようにも感じられた。
そして終盤に登場するある画像。それはそれまで避けてきた
ように写さなかった映像が唐突に登場する。その衝撃もまた
監督の言いたかったことであろうし、それが観客の胸に突き
刺さる。
鮮烈で過酷な作品だ。それに目を背けることなく、真摯に描
き切る。これが艾未未の真骨頂なのだろう。
公開は2019年1月、東京は渋谷シアター・イメージフォーラ
ム他にて全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『アリー スター誕生』“A Star Is Born”
(1937年のオリジナルから、1954年、1976年にも映画化され
た物語の3度目のリメイク。アルコール依存で落ちぶれ始め
ているスター歌手が、ふと立ち寄った場末のクラブで才能豊
かな女性歌手と出会い、彼女をスターダムへと押し上げる。
そして2人は愛し合い結婚に至るが、酒に溺れるスター歌手
は彼女の負担になって行く。37年版はハリウッドが舞台で、
54年版は歌手の話だが映画界も関る。それが76年版と本作で
はロック音楽が背景にされている。ただ才能はあるがスター
性に欠ける女性が、一気に駆け登る姿は夢の実現であり、何
時の時代にも共感を呼ぶものだろう。とは言え結末は…そろ
そろ変えられないのかな? 出演は映画初主演のレディ・ガ

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10月21日(日)
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