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On the Production
by 井口健二
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■第30回東京国際映画祭<コンペティション部門>
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※今回は、10月25日から11月3日まで行われていた第30回※
※東京国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。な※
※お、紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は※
※最少限に留めたつもりですが、多少は書いている場合も※
※ありますので、読まれる方はご注意下さい。     ※
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<コンペティション部門>
『勝手にふるえてろ』
(2017年9月24日付の題名紹介を参照してください。)
『最低!』
(2017年10月15日付の題名紹介を参照してください。)

『スヴェタ』“Sveta”
映画史上で最も強烈と言えるかもしれない行いをする女性を
描いたカザフスタンの作品。主人公は縫製工場で働く聾唖の
女性。同様の障害者ばかりの職場で高学歴の彼女は指導的な
立場にいる。ところがリストラで比較的暮らしの良かった彼
女に退職の危機が迫る。しかし彼女には別の事情もあった。
そこで彼女が執った行動は…。物語が常に二者択一の状況で
展開され、それがことごとく期待と反対の方向に進行する。
それは観客にとっては実に不愉快な展開なのだが、最後の最
後に彼女の執る行動が見事に僕の心を掴んでしまった。いや
はやとんでもない作品だ。女性監督ジャンナ・イサエヴァに
よる脚本、演出も巧みだし、健常者でこの難役を演じ切った
主演女優ラウラ・コロリョヴァにも拍手を贈りたい。

『シップ・イン・ア・ルーム』“Korab v Staya”
撮るべきものの方向性を見失っていた元戦場カメラマンが、
一緒に住むことになった女性の弟を引き籠りから脱却させる
ために、自らの仕事を活用しようとするブルガリアの作品。
言わんとするところは判るが、元々普遍性に乏しい内容で余
り共感は出来なかった。しかも本来はスチルカメラマンの男
性がディジタルカメラをムーヴィに切り替えて撮り始める。
それは弟が帆船に興味があるようで、最初は港を撮っている
のだが、それが街中の風景まで撮るようになる。その動画の
羅列が何となくカメラのカタログのような雰囲気になって、
映画の展開としても不自然だった。監督のリュボミル・ムラ
デノフはドキュメンタリーが多いようで、それでムーヴィな
のだろうけど、展開が何処か唐突に感じられた。

『グレイン』“Buğday”
映画祭の公式カタログでSFとジャンル分けされた作品。背
景は過剰な遺伝子操作でほとんどの作物が死滅寸前になって
いる未来。主人公は遺伝子操作の専門家だったが、この事態
に以前の同僚がこれを予言していたことを思い出す。そこで
その同僚を探し出し、解決策を探ろうとするが…。映画の最
初には未来的な風景もあり、一般的なSFであることは間違
いない。しかしSFファンとしてこの内容をSFと呼ぶのは
少し躊躇う。荒野を彷徨いながらヒントを頼りに謎を解いて
行く展開は、むしろ『ドラゴンクエスト』のようなRPGの
世界観を想起した。脚本、監督のセミフ・カプランオールは
ベルリン・金熊賞も受賞したトルコの名匠で、本作も問題意
識などアイデアは良いが、SFとは違う方向の作品だ。

『グッドランド』“Gutland”
寒村で巻き起こるかなり異常な事態を描いたルクセンブルグ
の作品。主人公は何かに追われるようにその村に辿り着く。
そこでも最初はよそよそしかったが、1人の女性と知り合い
になったことから事態は好転する。しかしその村には、彼自
身が抱える以上に大きな謎が隠されていた。脚本、監督のゴ
ヴィンダ・ヴァン・メーレは、長く業界にいての初長編作品
のようだが、伏線や謎解きも卒なく纏められた巧みと言える
作品だった。それにしてもドイツ近隣国の音楽事情というの
は、以前にも村対抗のバンド合戦で隣村のトランぺッターを
引き抜く話があったと思うが、かなり文化として定着してい
るようだ。それとヨーロッパの小国と呼ばれる国の意外と広
大な田園風景にも驚いた。

『マリリンヌ』“Maryline”

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11月04日(土)
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