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On the Production
by 井口健二
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■time slipという言葉について、丸
 今回は少し違う話題から。
 先日テレビのクイズ番組を見ていてちょっと気になる問題
があった。それは複数の英単語らしきものが並ぶ中で、和製
英語を引いたら負けという設問だった。そして単語群の中に
は3つの和製英語が含まれているという。そこでナイターと
バックミラーはすぐに判ったが、もう1つが判らなかった。
 ところが回答者がタイムスリップを引いた時に負けの表示
が出て、これは和製英語で正しくはタイムトラベルだと解説
された。しかし僕はtime travel と time slipは概念が異な
るし、そもそもtime slipが和製英語か疑問に感じた。
 そこでSF仲間の集会でその話をしたら、すでに僕が行く
前にその話題になっていたようで、すぐに以前に翻訳された
P・K・ディックの『火星のタイムスリップ』の原題は何だ
ろうという話になった。
 その原題は“Martian Time Slip”。原書が出版されたの
は1964年だとのことで、その時代に日本でtime slipという
言葉が使用されていたとは考えられない。従ってこの言葉は
正式に英語であり、設問は誤りだという結論になった。
 さらに後日この件を調べてくれた人がいて、「広辞苑」や
「新明解国語辞典」、「岩波国語辞典」、「大辞林」などに
タイムスリップという項目が立てられていていずれも和製英
語と認定されているとのことだ。
 その中で、「広辞苑」では1998年刊行の第5版からこの項
目があるそうで、この辺が元凶のように思える。
 一方、海外の文献では、翻訳もされているピーター・ニコ
ルズ編の『SF百科事典』には「TIMESLIP」の項目があり、
そこには1956年のイギリス映画が上っているとのこと。因に
その作品は、1968年『チキ・チキ・バン・バン』などのケン
・ヒューズ監督によるものだそうだ。
 また『SF百科事典』の「TIMESLIP」の項目には、1979年
の角川映画『戦国自衛隊』のアメリカ公開題名としても上っ
ているそうで、日本でもこの映画の宣伝にタイムスリップと
いう言葉が使われたのが、一般に知られた始りのようだ。
 いずれにしてもクイズ番組の問題は誤りで、タイムスリッ
プと答えた人は負けではなかった訳だが、最近「広辞苑」に
項目のあるなしだけで正答/誤答を決めるクイズ番組も観た
りして、その権威付に多少の危惧も感じるところだ。
 なお、僕が考えるtime travelの概念は、『バック・トゥ
・ザ・フューチャー』などのように装置を使って意図的に行
う時間旅行。それに対してtime slipは、自然現象などで起
きるもので、正に『戦国自衛隊』は典型と言えるものだ。
 ここで1つ思い出したのだが、多分その公開当時に渋谷で
開かれていた一の日会で、スリップを女性の下着に引っ掛け
て、それを着ると時間旅行ができるという冗談を言っていた
気がする。
 でもその場合は装置を使って意図的に行うのだから、time
slipではなくて、time travelに当るものだ。
 以上、こんなことを書いていて更新が遅れてしまった申し
訳ない。

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『丸』
「ぴあフィルムフェスティバル2014」に選出され、その後に
バンクーバー国際映画祭やロッテルダム国際映画祭、さらに
MoMA主催で新人監督の登竜門とされる「New Directors/New
Films 2015」でも上映されたという鈴木洋平監督作品。
登場するのは、親の家の2階の自室に引き籠っているニート
の男。そこに女が訪ねてきて布団に引き込む。そしてことが
終って起き上がった女が、1点を指さしたまま硬直する。さ
らに振り返った男も硬直する。
やがて帰ってきて2階に上がった父親も同じになり、異常を
感じた母親は警察を呼ぶが、部屋に入った警官も次々同じ状

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06月04日(日)
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