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On the Production
by 井口健二
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■第29回東京国際映画祭<コンペティション部門>
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※今回は、10月23日から11月3日まで行われていた第29回※
※東京国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。な※
※お、紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は※
※最少限に留めたつもりですが、多少は書いている場合も※
※ありますので、読まれる方はご注意下さい。     ※
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『アズミ・ハルコは行方不明』
(2016年8月21日付の題名紹介を参照してください。)

『サーミ・ブラッド』“Sameblod”
僕が子供の頃には「ラップ人」と教えられたヨーロッパ北部
に住む民族に纏わるスウェーデンでは黒歴史とも言える出来
事を背景としたドラマ作品。
1930年代のスウェーデンではサーミ族と呼ばれる人々が差別
と同化政策によってその民族の歴史を失おうとしていた。そ
んな中で自らの出自を消してスウェーデン人になり切ろうと
した少女の物語。
自らサーミの血を引くアマンダ・ケンネル監督が、サーミ族
の少女を主演に起用してその悲劇を描き上げる。主人公が辿
る、ある意味、民族の思いとは正反対の出来事を描くことに
より、その悲劇が際立たされる。巧みに描かれた作品だ。

『ダイ・ビューティフル』“Die Beautiful”
2013年の『ある理髪師の物語』で主演女優に受賞をもたらし
たジュン・ロブレス・ラナ監督の新作。
前作とは打って変わった現代劇で、トランスジェンダーの美
人コンテストで優勝した主人公が急死し、その生前の様子と
遺言に沿った葬儀を行おうとする残された人々の姿が、時間
を交錯させてコミカルに描かれる。
正直に言って僕はこの文化にはなかなか馴染めないのだが、
そんな中で本作に関しては、最初は引き気味に観ていたもの
の、最後にはある種の共感が得られるほどに描かれていた。
これも監督の手腕であることは確かだろう。

『ビッグ・ビッグ・ワールド』“Koca Dünya”
2013年に『歌う女たち』などが出品されたレハ・エルデム監
督の新作。孤児院で育ち、互いの絆だけを生きがい兄妹が、
彼らを分けようとする社会に抵抗し苦闘する姿を描く。2人
は罪を犯してまで逃亡を図り、森の中に隠れるが…。
兄が岸辺にバイクを隠して川を渡って隠れ家と行き来する。
その様子には2014年の『ゼロ地帯の子どもたち』を思い出し
た。本作はよりシビアな内容だが、森の中の様子はメルヘン
でもある。
その暗示するものにはいろいろと考えてしまうところもある
が、テーマとしての社会性と、その一方での描かれる映像美
などがバランスよく纏まっている作品とも言える。

『空の沈黙』“Era el Cielo”
女性が自宅でレイプされる衝撃的な場面から始まるブラジル
の作品。しかし彼女は帰宅した夫にそれを伝えず、夫も何か
秘密を抱えているようだ。そんな夫婦の微妙なバランスが、
やがてとんでもない事態へと進んで行く。実に見事な作劇の
作品。次から次へ変化して行く物語の展開が面白い。
2009年の審査員特別賞『激情』の原作者セルジオ・ピージオ
の小説に基づく作品で、原作者自身が脚色も手掛けている。
監督のマルコ・ドゥトラは、2011年のデビュー作がカンヌ映
画祭「ある視点」部門でプレミア上映されたとのことで、本
作は監督の第3作となる。

『フィクサー』“Fixeur”
未成年者売春組織を追ってフランスから来た撮影隊に地元の
若者が通訳兼助手として参加。彼はいろいろな手蔓を使って
取材に協力して行くが…。その取材を妨害する地元の黒社会
が徐々にその実体を現し始める。
ルーマニアの作品で原語表記のものはよく判らないが、エン
ドクレジットには実話からインスパイアされたと書かれてい
る気がした。正に実話に基づくものなのだろうが、そこから
何が言いたいのかがよく判らなかった。
監督のアドリアン・シタルは同時期にもう1本撮っていて、
そちらはベルリン映画祭に出品されたそうだ。監督は被害者
の人権も考えない報道の過熱を描きたかったようだが、それ

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11月04日(金)
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