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On the Production
by 井口健二
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■さとにきたらええやん、冬冬の夏休み
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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『さとにきたらええやん』
大阪府西成区にある釜ヶ崎で38年間に亙って子供の保護施設
「こどもの里」を運営している一女性と、その施設の模様を
描いたドキュメンタリー作品。
タイトルだけを観ていて、「さと」という言葉には何となく
エコロジー系のドキュメンタリーを連想させるものもあった
が、映画が始まった途端にとんでもない現実を突きつけられ
る思いがした。
釜ヶ崎という地名には、僕自身が子供のころにニュースなど
でよく見た記憶があるが、今回ネットで少し調べてみたら、
それは歴史上の地名であって現実の行政が用いる名前ではな
いようだ。
だから近年の報道では「あいりん地区」などという如何にも
誤魔化しのような地名を目にするようになったが、それも意
味がないわけではないようだ。そんな如何にもあいまいな場
所が舞台となる。
そして巻頭は、狭い道の人込みを猛スピードで走る自転車の
映像。それは被写体でもあり、またカメラの目線にもなる。
こうして観客は釜ヶ崎へと案内されるが、そこは現在でも朝
の職安に人が群がる日雇い労働者の街だ。
そんな中で運営されている「こどもの里」は、母親が夜の仕
事を持っているような子供たちの避難所にもなっている。し
かもその母親には子育ての能力がなく、生まれた子供にもあ
る種の障害がある。
正に負の連鎖とでも呼べそうな状況の中で、それでもその連
鎖を断ち切って子供たちを未来へ羽ばたこうとさせる人々。
そこには公的な支援も先細る中で、自らの健康も顧みずに必
死に活動を続けている姿があった。
監督は、大阪府出身、映像系の専門学校を卒業して制作会社
に入り、その後フリーで活動しているという重江良樹。彼は
2008年から最初はヴォランティアとして「こどもの里」に関
り、2013年から本作の撮影を開始したとのことだ。
従って内情なども知り尽くした眼が、正しく子供たちに寄り
添うようにいろいろな出来事を捉えて行く。それは悲惨さだ
けでなく、将来への希望も描き出す。その眼差しが観る者に
も希望を与える作品だ。
とは言うものの、厳しい現実も明確に描かれた作品で、それ
は安寧の中にいる自分にも突き付けられる。そんな感じにも
捉われた。知らないでは済まされない現実。しかしほとんど
の人には知ることもできない。
そんな現実を知らしめてくれる作品だ。
公開は6月中旬より、東京はポレポレ東中野、大阪は第七芸
術劇場他で、全国順次ロードショウとなる。

『冬冬の夏休み』“冬冬的暇期”
1980〜90年代に起きた台湾新電影の担い手の1人とされる侯
孝賢監督が1984年に発表し、映画祭での受賞に輝いた作品。
その作品がディジタルリマスターされて再公開されることに
なった。
冬冬が小学校を卒業した夏休みの事。お母さんが病気の治療
で手術をすることになり、看病で忙しくなるお父さんは子供
をお母さんの実家に預けることにする。そしてお母さんには
毎週手紙を書くと約束した冬冬は、妹の婷婷と一緒に祖父の
家へと向かうのだが…。
僕自身が子供の頃の夏休みには両親の帰省で滋賀県の田舎に
行っていたもので、その頃に子供たちだけで近所を冒険した
りはよくしたものだ。それは普段は町場に住んでいた僕には
観るもの全てが珍しい、異世界を冒険するような気分だった
のかもしれない。
そんな自分自身の思い出というか、原風景が目の前に繰り広
げられているような感じの作品だった。とは言うものの、僕
自身の子供時代は1960年前後で本作品は1984年。実は最初の
方で台詞に「東京ディズニーランド」という言葉が出てきて
ちょっと驚いてしまった。

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04月10日(日)
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