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On the Production
by 井口健二
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■第26回東京国際映画祭《アジアの未来部門》《ワールド・フォーカス部門》
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※今回は、10月17日から25日まで行われていた第26回東京※
※国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。なお、※
※紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は最少※
※限に留めているつもりですが、多少は書いている場合も※
※ありますので、読まれる方はご注意下さい。     ※
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《アジアの未来部門》
『今日から明日へ』“今天明天”
巻頭に、住居の外壁に赤ペンキで取り壊しの印を描いている
シーンが登場し、2008年1月紹介『胡同の理髪師』にも同様
の情景があったことを思い出した。本作の背景は現代だが、
中国の風景はあまり変わっていないようだ。その本作の舞台
は北京の唐家嶺。そこには大学卒だが非正規雇用に甘んじる
若者たちが数多く集団生活している。そんな3人の若者(男
2、女1)の生活ぶりが描かれる。彼らは「80后」=1980年
代生まれで、ちょうど自分の子供と同世代だが、日中の若者
に違いがあるのか否か、また自分の青春時代と重ね合わせて
も興味深い作品だった。

『リゴル・モルティス/死後硬直』“殭屍”
『呪怨』の清水崇監督がプロデューサーを務めた香港製のホ
ラー作品。原題は1980年代に人気のあったキョンシーのこと
で、落ちぶれた元俳優が、化け物が出ると噂されるアパート
に引っ越してきたことから恐怖世界に巻き込まれる。2011年
4月紹介『ドリーム・ホーム』に出演のジュノ・マックによ
る初監督作品で、原題は『キョンシー』だがオリジナルとは
違ったリアルなホラーが展開される。ただしキョンシー映画
に出ていたチン・シウホウの登場など、オマージュには満ち
ていたものだ。しかもアクションも満載で、エンターテイン
メントとしては楽しめた。

『起爆』“들개”
主人公は大学の理科系の研究室で不遇をかこっている助手の
若者。彼は自分の知識を駆使して爆弾を作り、爆発させては
うさを晴らしていた。しかし用意周到な彼には警察の追及が
伸びることもなかった。ところがそんな彼に接近してくる者
が現れ、その者は彼を恐怖の世界へと導いて行く。日本以上
の学歴社会と言われる韓国で、その狭間に置かれた男の悲劇
がサスペンスと共に描かれる。物語はそれなりに卒ないが、
主人公の心理状態などが今一つ捉え難く、それは現代の若者
というだけでは説得力がないようにも感じられた。映画の全
体も印象が薄かった。

『流れ犬パアト』“PAAT”
飼い犬が禁止されているというイランの街で、トラブルを抱
える男に飼われていた犬。しかし飼い主が殺され、犬は逃亡
生活を始める。そして様々な境遇の人々との出会いや別れの
中で、社会が置かれている状況が描かれる。犬はなかなかの
名演技だが、オムニバス的に描かれる物語の真意がよく理解
できなかった。しかも最後になっても結論は示されず、それ
が社会の現状と言われればそれまでだが、何の主張もなく映
像だけを垂れ流されたのでは、観客には感動もないし、それ
で何か行動をしようとも思えない。映画はプロパガンダでは
ないが、この作品には何かテーマが欲しかった。

『レコーダー 目撃者』“Rekorder”
映画館で盗撮をしていた男が、偶然路上での殺人をヴィデオ
に撮影してしまう。そして警察に目撃者として同行・協力を
求められるが、盗撮映像が一緒に入ったヴィデオを観せる訳
には行かない。窮地に陥った男が取った手段は…。映画の巻
頭にCanonのマークが出て、撮影にはその機材が使用された
ようだ。その映像は車載撮影や夜間も鮮明で、映画に挿入さ
れるソニーハンディカムの映像との対比も納得させられた。
ただお話は、現代ならこうなるなと思わせる程度もので特に
新規性もなく、結末には多少の展開はあったが、それも予想
を超えるものではなかった。
        *         *
 今回新設の《アジアの未来部門》は、新鋭監督の1本目、

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10月27日(日)
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