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On the Production
by 井口健二
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■第26回東京国際映画祭《コンペティション部門》
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※今回は、10月17日から25日まで行われていた第26回東京※
※国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。なお、※
※紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は最少※
※限に留めているつもりですが、多少は書いている場合も※
※ありますので、読まれる方はご注意下さい。     ※
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《コンペティション部門》
『ザ・ダブル/分身』“The Double”
『ソーシャル・ネットワーク』のジェシー・アイゼンバーグ
と『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカ
の共演で、ロシアの文豪ドストエフスキーの古典を映画化し
た作品。ちょっと内向的な主人公が、自分そっくりだが人当
たりの良い分身に振り回される。背景は現代化されているが
何となく昭和レトロな感じで、しかも音楽には「上を向いて
歩こう」や「ブルーシャトー」などが日本語のオリジナルで
挿入される。これも昭和レトロ感を掻き立てる仕組みだが、
作品はイギリスで製作されたものだ。何とも不思議な感覚の
作品だった。

『ウィ・アー・ザ・ベスト!』“Vi är bäst”
1982年のストックホルムを舞台に、普通通りには生きたくな
い少女たちのちょっとした冒険が描かれる。主人公は刈り上
げで、その親友はモヒカン刈り。登場した時には少年か少女
かも判然としない2人が、集会所のスタジオを独占していた
連中に反発してバンドを組む。そこにギターが得意な金髪の
少女も参加して、少女たちは彼女たちがまだ死んでいないと
信じるパンクを目指して練習を開始するが…。コード進行も
知らなかった少女たちが闇雲に突っ走る姿が小気味よく、そ
こにはちょっとした事件もあって、物語の全体は清々しい。
映画祭ではグランプリを獲得した。

『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』
           “L'Amour est un crime parfait”
1986年『ベティ・ブルー』でも知られるフランスの作家フィ
リップ・ディジャン原作小説の映画化。主人公はローザンヌ
大学文学部の教授。40代だが独身の彼は学生を相手に次々と
情事を重ねている。そんな彼が女性を連れて行くのは人里離
れた場所に建つシャレー。それは彼と妹が両親から相続した
ものだ。そんな冬のある日、彼の教え子の1人が失踪する事
件が起きる。スイス・フランス国境の山と湖が美しい風景を
背景に、現代のフィルムノワールが描かれる。多少謎解きの
要素も含む作品だが、全体的には何が描きたいのか不明な作
品だった。

『捨てがたき人々』
ジョージ秋山が1990年代後半に発表した原作の映画化。長崎
県五島を舞台に、風采が上がらず、生きて行くことにも飽き
た男が故郷に舞い戻る。しかしそこには自分を覚えている者
もほとんどいない。そんな男が顔にあざのある女と出会い、
少しずつ自分を取り戻して行く。監督は2010年2月紹介『誘
拐ラプソディー』などの榊英雄、主演は大森南朋。その脇を
三輪ひとみ、美保純、田口トモロヲらが固めている。九州が
舞台のダメな男の物語だが、個人的には今年7月に紹介した
青山真治監督の『共喰い』が重なって、その作品の骨太さに
比べると何となく弱い感じがしてしまった。

『ハッピー・イヤーズ』“Anni felici”
2012年7月29日付「三大映画祭週間」の中で紹介した『我ら
の生活』のダニエレ・ルケッティ監督による新作。ナルシス
トな「芸術家」の父親と、夫に献身的な母親、それに2人の
息子の1974年のひと夏が、長男の目を通して描かれる。なお
題名は英名も“Those Happy Years”だが、物語は年を跨い
ではいなかったように思う。その物語では、父親の展覧会が
散々な結果になったり、母親の不倫(父親はアトリエでモデ
ルと不倫しているが…)や、さらに息子の成長などが愛情と
ユーモアを込めて巧みな構成で描かれる。映画祭では無冠だ
が、個人的には一番好きな作品だった。


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10月26日(土)
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