ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■箱入り息子の恋、はじまりのみち、殺人の告白、モスダイアリー、オブリビオン(追記)、クソすばらしいこの世界、キス我慢、シャニダール
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『箱入り息子の恋』
2009年8月紹介『無防備』の市井昌秀監督による新作。前作
はぴあフィルムフェスティバルに出品された自主映画だった
が、本作はプロデューサーも付いた本格的な商業映画だ。
主人公は、地方都市の市役所に勤める35歳独身の男性。人付
き合いが下手で女性と付き合ったこともなく、当然童貞だ。
そんな男性が、ある切っ掛けから1人の女性を好きになる。
しかしそこには大きな障害が立ちはだかっていた。
題名を見たときに、以前なら字義通りのものを考えただろう
が、最近の状況では引き篭りやオタクといったものが連想さ
れる。そのどちらもが日本映画に登場すると、まずステレオ
タイプで薄っぺらなものが多く、納得のできる作品に出会っ
た例がなかった。
従って本作に関しても、試写を観るまでには多少の躊躇もあ
ったものだ。しかし先の紹介作で、釜山国際映画祭のグラン
プリやベルリン国際映画祭のフォーラム部門上映も勝ち取っ
ている市井監督は、流石に見事な作品を作り上げていた。
因に本作の物語の基本は、プロデューサーと劇作家でテレビ
ドラマの脚本を数多く手掛けている田村孝裕が作ったものの
ようだが、市井監督は物語にもかなり関与したようで、共同
脚本とノヴェライズ小説の著者にもなっているものだ。
その物語では、両親による代理お見合い(この題材は2009年
2月紹介『レイン・フォール』などのマックス・マニックス
監督がもたらしたものだそうだ)など、日本の恋愛事情の現
状を描くようなシーンもあり、社会性の感じられる作品にも
なっている。
そして上にも書いた主人公を待ち構える障害の部分が、これ
は何とも言えない切なさで、見事に日本の現状を描いている
ようにも見えるものだ。その障害を克服して行く主人公の姿
には、思わず応援したくなる。そんな素敵な作品に仕上げら
れている。
出演は、2008年10月紹介『ノン子36歳』などの星野源、彼
はシンガーソングライターでもあるようだ。相手役に同1月
紹介『うた魂♪』などの夏帆。両親役に平泉成、森山良子、
大杉漣、黒木瞳。他に穂のか、柳俊太郎、竹内都子、古舘寛
治らが脇を固めている。
シチュエーションは特別だが巧みに作られた物語で、作品と
して良くできていた。

『はじまりのみち』
木下恵介監督の生誕100年記念として製作された作品。
木下監督作品では、昨年12月に日本初のカラー長編映画『カ
ルメン故郷に帰る』を特別上映で観て紹介しているが、その
社会派的な視点などには現代の目で観ていても感嘆するもの
があった。
その木下監督は、第2次大戦中の1943年に監督デビューして
いるが、翌44年に陸軍省の後援で監督した4作目の『陸軍』
が内容的に軍部の批判に晒され、一時映画界を離れている。
本作はその頃を背景にしている。
その映画『陸軍』公開の直前に、監督の母親たまは東京蒲田
の自宅で脳溢血のため倒れ、実家のある浜松の病院に入院し
ていた。しかし空襲が激しくなることを懸念した監督らはさ
らに山中の疎開場所へと向かう。
その行程は、リヤカーに病身の母親を乗せ、他に身の回りの
品を載せたリヤカーの2台を、迎えに来た兄と雇った便利屋
の3人で引いて行くというもの。その初日は、真夜中に出発
して17時間を休みなく山越えをするという強行軍となる。
物語はそんな男たち3人と母親の姿を追いながら、映画『陸
軍』の場面なども挿入して、当時の木下監督の置かれた立場
や、日本の時代背景などを描いて行く。それは脚本も巧みで
演出も的確に描かれた作品だった。
因に物語は、木下監督が昭和30年に新聞に発表したエッセイ
に基づくものだ。

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05月10日(金)
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