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On the Production
by 井口健二
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■第24回東京国際映画祭(1)
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※今回は、10月22日から30日まで行われていた第24回東京※
※国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。なお、※
※紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は最少※
※限に留めているつもりですが、多少は書いている場合も※
※ありますので、読まれる方はご注意下さい。 ※
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《コンペティション部門》
『ヘッドショット』“ฝนตกขึ้นฟ้า”
2007年4月紹介『インビジブル・ウェーブ』などのタイ人監
督ペンエーグ・ラッタナルアーンによるかなり捻りの利いた
ノアール・サスペンス。
主人公は元警察官の暗殺者。その暗殺者が、仕事中の頭部に
受けた銃弾によって視野の天地が逆様になってしまう。つま
り、テレビも逆様に置かなければ観ることが出来なくなって
しまう。それでも仕事は続けなければならない主人公は、や
がてある達観を得る。
という主人公の、正義感の強い刑事から一種の仕置人のよう
な正義に基づくと思われる暗殺者になるまで経緯や、暗殺者
としての仕事振り、さらにその仕事に隠された真の目的など
が、時系列をばらばらにして描かれて行く。
監督は元々ノアール調の作品が得意なので、それは雰囲気の
ある作品になっていた。ただし肝心の天地が逆様に見えると
いう設定が物語として活し切れていない。描きたかったのは
先に書いた「それで達観を得る」ことの方なのかもしれない
が、その達観自体の内容も不明確で、観客に充分に伝わって
こないのでは、作品としては意味不明だ。
テーマ的には僕のテリトリーのものだし、期待も大きかった
のだが、その期待は見事に外されたという感じの作品になっ
てしまった。
『キツツキと雨』
2009年『南極料理人』が話題になった沖田修一監督のオリジ
ナル脚本による作品。今回のコンペティションに日本映画で
は唯一の参加となり、審査員特別賞を受賞した。
山間の林業で成り立っているらしい村にゾンビ映画の撮影隊
がやってくるというシチュエーションの、かなりコメディ調
の作品だが、物語では若い監督の成長やそれに巻き込まれる
周囲の人々の人情のようなものも巧みに描かれていて、映画
としてはすっきりと鑑賞できた。
しかし作品としては可もなし不可もなしというか優等生過ぎ
る感じで、果たしてこれが審査員特別賞に値するかというと
多少疑問には感じられた。僕としては、この賞にはもっと尖
った作品を期待してしまうところだ。
ただし、僕は役所広司の最優秀男優賞ならありかなと思って
いたものだが、役所は1997年の『CURE』で主演男優賞を
受賞しているから、2度目は難しかったかも知れない。その
代わりの受賞のような感じもしてしまった。
映画の中では、「ゾンビは走りません」という監督の台詞が
あってそこはニヤリとしたが、沖田監督自身はゾンビには興
味はなくて、その種の映画も観たことはなかったそうだ。で
もこういう台詞は書けたということで、それには感心した。
『最強のふたり』“Intouchables”
事故で頸から下が完全に麻痺してしまった富豪と、その介護
人に選ばれた黒人青年との実話に基づくフランス作品。映画
祭では、最高賞のサクラグランプリと、主演の2人が最優秀
男優賞を受賞した。
刑務所から出てきたばかりの黒人青年が、失業保険の手続き
に必要な面接を受けにやってくる。従って本人には受かるつ
もりもないから面接もいい加減な態度なのだが、それが多少
へそ曲がりの富豪に気に入られてしまう。
そこからは趣味も生活も正反対の2人がすったもんだを繰り
広げるが、徐々に互いを理解し合いやがて「最強のふたり」
を作り上げて行く。まあどちらから見ても夢みたいな話で、
正直にはこんなに巧く行くはずないとも思ってしまうが、こ
れは実話に基づくものなのだ。
コメディとしてナチュラルで、その点に感心した。実はこの
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10月30日(日)
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