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On the Production
by 井口健二
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■第22回東京国際映画祭・コンペティション以外(3)+まとめ
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※このページは、東京国際映画祭での上映作品の中から、※
※僕が観て気に入った作品を中心に紹介します。    ※
※以下はコンペティション以外の上映作品の紹介です。 ※
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『メアリーとマックス』(WORLD CINEMA部門)
実話に基づく物語とされるオーストラリア製の人形アニメー
ション。
1976年という時代背景で、それぞれが心に病を抱えるオース
トラリア・メルボルン在住の8歳の少女と、アメリカ・ニュ
ーヨーク在住の44歳の男性とがペンパルとなり、その後20年
に及んだ文通による交流が描かれる。
少女は両親からアクシデントで生まれた子供と言われ、それ
が心の傷となったまま孤独に生きている。一方の男性は、ア
スペルガー症候群で他人とのコミュニケーションが苦手。そ
んな2人が手紙や贈り物の遣り取りで交流を深めて行く。
そしてそれぞれは、少女から大人の女性へ、また壮年期から
老人へと人生の変化を遂げて行く。そこには意見の相違など
いろいろな紆余曲折があり、長い時間の流れが互いの手紙の
朗読とそれに関る事象の映像で描かれる。
その主人公の声を、少女役は『シックス・センス』でオスカ
ー候補になったオーストラリア人女優のトニ・コレット、男
性役は『カポーティ』で受賞のフィリップ・セーモア・ホフ
マンが演じており、さらにエリック・バナらが声の共演をし
ている。
映像はかなりデフォルメされた人形によるコマ撮りアニメー
ションだが、そこそこの社会性と、ユーモアにも満ちたキュ
ートな物語が展開されて行く。また、愛情に恵まれなかった
2人の、それでも愛を求める切ない物語が描かれたものだ。
なお、男性の書棚にASIMOVと記された本があったり、彼自身
がニューヨーク・SFファンクラブの会員であるなどといっ
た説明もあり、その辺は実話と言うことなのかな。また物語
の中ではルイス・キャロルに模したカバン語を連発するシー
ンも描かれていた。
物語の結末も見事で、心に染みる作品になっていた。

『風のささやき』(アジアの風部門)
イラク北部のクルド自治区(クルディスタン)を舞台に、カ
セットレコーダーに録音した人々の声を他所で再生してメッ
セージを伝える男性を主人公にした物語。
映画の最初の方で、イラクの官憲に捕まった主人公が手紙を
勝手に配達するのは法律違反だと説明されるシーンがある。
それが、彼がやっているカセットテープを運ぶことを指して
いるのか、それまでは手紙を運んでいたのかは判らなかった
が、確かにカセットに録音した音声を他所で再生することが
親書の運搬に当るのかどうかは微妙なところだ。
それに彼が行っているのは、人から人へのメッセージの伝達
だけではなく、特定の場所で捧げられる神への祈りの代行も
行っているようなのだ。
そんな法律の抜け穴のような仕事をしている主人公だが、実
は物語の舞台となるクルディスタンは、イラン・イラク両国
の北部に位置し、すでにクルド共和国を宣言はしているもの
の独立は認められていない地域。そんな国際情勢も背景にし
た物語が展開される。
そこでは、当然独立派に対する弾圧も厳しく、一方独立派の
住民はゲリラとなって抵抗を続けている。物語の中でも、そ
んな独立派を支援する地下放送局や、住民が避難して無人と
なった村、故郷に残した妻の身を案じるゲリラのリーダーな
ども登場してくる。
なお、映画祭のパンフレットでは『山の郵便配達』の題名が
挙げられていたが、緑豊かな山岳地帯が舞台だった中国映画
と比べると、本作の舞台は正に砂漠の山岳地帯。その荒涼と
した中で、弾圧を受けながら生きる厳しさも伝わってくる作
品だった。
また、映画祭での本作の国籍表示はイランとなっていたが、
アメリカのデータベースによると製作国はイラク・クルディ
スタン自治府(Regional Government of Iraqi Kurdistan)
となっている。本作の監督はイラン領クルディスタン人で、

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10月26日(月)
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