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On the Production
by 井口健二
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■第22回東京国際映画祭・コンペティション以外(2)
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※このページは、東京国際映画祭での上映作品の中から、※
※僕が観て気に入った作品を中心に紹介します。 ※
※以下はコンペティション以外の上映作品の紹介です。 ※
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『タンゴ・シンガー』(WORLD CINEMA部門)
アルゼンチンの出身で、ヨーロッパ映画の撮影監督としても
活躍するディエゴ・マルティーネス・ヴィニャッティによる
長編監督第2作。タンゴの歌声に載せて、ヒロインの失恋と
孤独が描かれる。
主人公は、4人組の男性バンドと共にタンゴを歌っている女
性歌手。物語の中では別の男性から最近振られたらしく、何
度も電話を掛けては留守番電話のメッセージに落胆する姿が
描かれる。
それとは別に彼女には、その実力が認められてクラシック専
門の劇場から出演の依頼が来ていたりもする。そしてその依
頼には、自らの実力に不安も隠せない主人公だったが、そん
な時に相談する相手も彼女にはいないようだ。
そんな主人公が入水自殺を図ったり、救出された海岸の近く
でパン屋の修業をしたり、そこに通ってくる地元の教師に恋
心を打ち明けられたり、地元カフェで歌ったり…といったエ
ピソードが綴られて行く。
とは言うものの、それらのエピソードが、最近流行りの時間
軸を入れ替える手法でばらばらに提示されてくるのだが、そ
れがまたちゃんとは整理されていないから、物語はかなり混
乱して判り難いものになってしまっている。
それに折角のタンゴの歌声が、それは主演女優自らの声で収
録されているのだが、その歌唱力に多少難があるのも辛いと
ころ。監督自身が「完璧さは求めなかった」とはしているも
のの、やはり聴いていて気になったものだ。
ただしそれを補って余りあるのが、彼女のマエストロとして
登場する老齢の男性歌手で、彼が劇中で歌うときのその歌唱
力、表現力には圧倒された。もう1人登場の男性歌手は口パ
クだったようだが、このマエストロの歌声だけでも聞く価値
はあるものだ。
因に、この作品はその男性歌手に捧げられていた。
『タレンタイム』(アジアの風部門)
昨年の映画祭で『ムアラフ−改心』という作品が上映されて
スペシャル・メンションを受賞し、今年7月に急逝したヤス
ミン・アフマド監督の遺作。
「タレンタイム」と名付けられた学内でのタレントオーディ
ションを巡って、その本選に出場する生徒たちとその家族の
物語が展開される。そこにはマレーシアという国家を背景に
して、民族や宗教などいろいろな問題が絡んでくる。
主人公は、そこそこ裕福な感じの一家に暮らす長女。いろい
ろ口うるさい妹はいるけれど家庭環境などに問題はない。そ
して彼女はかなり大人びた感じのピアノの弾き語りで本選に
臨むことになる。
その他の本選出場者には、自作のギター弾き語り曲で出場が
決まった男子や、見事に二胡を演奏する男子などもいるが、
この2人はお互いをライヴァルとしてかなり緊張した雰囲気
も漂っている。
そしてそのオーディション期間中は、出場者には生徒運転の
バイクによる送り迎えが付くのだが、主人公の女子を迎えに
来たのはギター弾き語りの男子とも仲が良い無口な同級生だ
った。
学校主催の行事なのに賞金が出たりとか、日本だとあまり考
えられない話もあるが、全体的にはユーモアや深刻な事態な
どが絶妙に織り込まれた物語が展開される。そこには日本人
には疎い宗教の問題も絡むが、それは劇中でもそれなりに理
解できる範囲ではある。
それと本作では、出場する生徒たちの演奏の素晴らしさが最
大の魅力の一つでもあって、それぞれが見事な演奏を繰り広
げている。映画祭の情報だけではそれぞれがどのような経緯
で選ばれた俳優なのか判らないが、それは素晴らしかった。
因にエンディングクレジットによると、演奏される楽曲はほ
とんどがこの映画のためのオリジナル曲だったようだ。
『愛してる、成都』(アジアの風部門)
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10月23日(金)
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