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On the Production
by 井口健二
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■第22回東京国際映画祭・コンペティション部門(1)
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※このページは、東京国際映画祭での上映作品の中から、※
※僕が観て気に入った作品を中心に紹介します。    ※
※まずはコンペティション部門の上映作品の紹介です。 ※
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『ACACIA』
芥川賞作家でもある辻仁成による2002年『目下の恋人』以来
となる監督作品。
辻監督が名誉市民にもなっている函館を舞台に、独居老人ば
かりが住む住宅団地に暮らす元プロレスラーの男と、彼の家
に居候することになった少年と、それぞれの家族と、その周
囲に暮らす人々を描く。
少年の家は母子家庭で少年自身は苛められっ子だったが、あ
る日のこと大魔神と呼ばれる元プロレスラーの男が苛めの現
場に遭遇し、少年を助けたことから交流が始まる。そして少
年の母親から暫く預かって欲しいと頼まれてしまう。
この大魔神にアントニオ猪木が扮し、少年役を2006年『暗い
ところで待ち合わせ』などに出演の林凌雅が演じている。他
に北村一輝、石田えり、坂井真紀、川津祐介らが出演。
劇映画の主演は初めてと思われる猪木は、まあ台詞廻しなど
にはきついところもあるが、それを子役の林らがよくカバー
している感じだ。もっとも映画祭の外国人審査員は字幕で観
るから、あまり違和感はないかも知れない。
それに今まではアクション俳優と認識していた北村が腹話術
など意外と芸達者なところを見せてくれるもので、その辺に
は感心した。因にエンドクレジットには腹話術指導という項
目があったから、これは今回学んだもののようだ。
監督自身は、事前に行われた映画祭の公式記者会見で挨拶し
て、「初めて自信が持てない作品」と称していたが、独居老
人や子供の苛めなどは外国でも共通の問題であろうし、その
問題はよく描けていたように思えた。
また映画の中には、函館山から見下ろして観る打ち上げ花火
などの風物も登場して、それは素晴らしかった。

『少年トロツキー』
俳優としても活躍するジェイコブ・ティアニーが自ら脚本・
監督を手掛けたカナダ作品。因にティアニーの監督作品とし
ては第3作のようだ。
両親にレオンと名付けられたために、自分を赤軍の闘士レオ
ン・トロツキーの生まれ替わりと信じてしまった高校生の物
語。そのため彼は自分の人生をトロツキーの人生に重ねて設
計し、まずは父親の経営する工場で組合作りに着手、ストラ
イキを決行する。
そんな息子に手を焼いた父親は、主人公をトロツキーと同様
の公立学校に転校させるのだが、そこで高圧的な教育姿勢を
目の当りにした主人公は、生徒たちを扇動して学校側に要求
を突きつけてしまう。そしてそれがマスコミにも取り上げら
れて…
1970年『いちご白書』をその時代に観ている者としては、い
ろいろと考えてしまう内容の作品だった。監督の政治姿勢が
どこにあるのかは判らないが、最近の何事にも無関心な若者
たちに一石を投じるつもりなら、これもありと言える作品だ
ろう。
実際に映画の中にも「無関心」という言葉が繰り返し出てく
るのだから、監督の意図もそこにあるのかも知れない。ただ
し映画では、トロツキーという存在を前面に出してお話を面
白おかしく描いてはいるが…
なお出演者の中にジュヌヴィエーヴ・ビジョルドの名前を発
見。『まぼろしの市街戦』や『コーマ』、1969年の『1000日
のアン』ではオスカーにもノミネートされたカナダ生まれの
女優はまだ健在のようだ。

『ダーク・ハウス/暗い家』
社会主義体制下の1978年と戒厳令下の1982年、その2つの時
代がリンクして物語が展開するポーランド作品。
社会主事体制下で起きた陰惨な事件を戒厳令下の警察が捜査
する。その物語は、容疑者が逮捕されて行われる事件の現場
検証と、容疑者が語る4年前の事件の再現とで進められるの
だが、そこにはそれぞれの時代を背負ったいろいろな思惑が
絡んでいた。
正直に言って、それぞれの時代のことをあまり認識せずに観

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10月16日(金)
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