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On the Production
by 井口健二
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■第163回
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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。 ※
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まずは、SF/ファンタシー映画ファンには今世紀最大の
ニュースと言えるかも知れないこの話題から。
1927年公開のフリッツ・ラング監督作品“Metropolis”の
完全版が発見されたようだ。
この作品については、昨年12月15日付第149回でリメイク
の計画を紹介して、その際にオリジナル版の状況についても
解説したが、1927年1月10日にベルリンでプレミア上映され
たオリジナル版の上映時間は210分であったとされている。
しかしその評判があまり芳しくなかったことと、長尺のフィ
ルムはそのプリント代も嵩むことから、製作会社のUFAは
再編集を断行、その結果、同年8月に行われたアメリカ公開
版は上映時間が114分となっていた。
ただし、この作品の製作はサイレントで行われたもので、
その撮影は毎秒16コマ。これに対して、アメリカでの公開は
サウンド版となっており、その上映は、サウンドトラックの
性能との関係から毎秒25コマで行われたものだ。従ってオリ
ジナル版をそのコマ数で上映すると134分となったはずで、
このときのカットは、毎秒25コマ換算で20分程度だったと考
えられる。因に、サイレント映画の上映で俳優の動きなどが
チカチカとコミカルに観えるのは、通常このコマ数の変化の
せいであって、演出的なものではないことが多い。
しかしこのときのアメリカ公開版が以後の標準版となり、
その際にカットされた20分のフィルムは完全に失われたもの
と考えられていた。実際、2002年に123分(毎秒25コマ)の
リストア版が作成されたときも、「もうこれ以上のフィルム
は発見されないだろう」とコメントされたものだし、2001年
のユニセフ世界遺産の登録でも、「完全版ではないが、これ
以上のものが得られる可能性はない」として、不完全を承知
で登録が認められたものだ。
という失われたフィルムの再発見だが、これが何と、南米
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにある映画博物館に保
管されていたとのことだ。その経緯について、Variety紙や
イギリスBBCなどの報道によると、このロングヴァージョ
ンのフィルムは、1928年に当時ブエノスアイレスでテラとい
う配給会社を経営していたアドルフォ・Z・ウィルスンなる
人物が入手。その後、フィルムはいろいろな人の許を渡り歩
いたが、1992年から同博物館に所蔵されていたとのことだ。
一方、アルゼンチンでは、1960年代に“Metropolis”の別
ヴァージョンが上映されたとの噂があり、その噂を確認する
べくフェルナンド・ペナという映画研究家が、1980年代から
博物館の所蔵フィルムを調査していた。そして今年の4月、
ついに博物館の調査員がフィルムを発見したというものだ。
その後6月に博物館は同作の著作権を管理するドイツのFW
ムルナウ財団に鑑定を依頼、このフィルムが失われた20分を
含むものと確認された。
なお研究者の中には、「まだ5分ほど足りない」という意
見もあるようだが、フィルムにはサブのキャラクターを掘り
下げるようなシーンもあり、何よりラングの演出のリズムが
はっきりと刻まれているとのことで、これを完全版と言って
かまわないもののようだ。
現在フィルムは、博物館を管理するブエノスアイレス市当
局の意向で、博物館からの持ち出しが禁じられており、今後
の取り扱いについては、ムルナウ財団とブエノスアイレス市
が話し合うとなっているが、この作品はすでにユニセフが、
「万人に供すべき世界遺産」として認めているものでもある
し、かなりの擦り傷などもあるとされるフィルムは、一刻も
早くリストアして、僕らにも観せてもらいたいものだ。
それにしてもこんなことが起こるとは、全く夢のような話
だ。
* *
以下は、製作ニュースを紹介しよう。
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07月15日(火)
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