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On the Production
by 井口健二
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■真木栗の穴、アメリカばんざい、ダークナイト、ボーダータウン、マルタのやさしい刺繍、ハンコック、ブロードウェイ♪…、ブタがいた教室
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※
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『真木栗の穴』
山本亜紀子原作「穴」(角川ホラー文庫刊)の映画化。
安アパートに1人住まい作家が、ふと隣部屋が覗ける壁の穴
を発見する。そしてその穴をテーマに、依頼された官能小説
を書き始め、それは好評を呼んで行く。ところが徐々に現実
と妄想との区別が付かなくなって…
鎌倉の釈迦堂切通し。そんな、厭が上にも神秘的な雰囲気を
見事に捉えたのは、三谷幸喜作品などでも知られる高間賢治
カメラマン。日本映画でこのようなスタッフにまで目が向く
ことは滅多にないが、この作品は、その風景からまず魅了さ
れてしまった。
物語は原作もある作品だから、しっかりしているものだが、
最初は見るからに現代的なホラーの作りから、徐々に古典的
な怪談に雰囲気が変わって行く。その辺りの計算された絵作
りにも納得させられたものだ。
脚本と監督は、『自転車とハイヒール』で2001年PFFアワ
ードに入選している深川栄洋。実はこの作品は、当時ぴあの
社内試写室で観たものだが、独自の雰囲気と評価された会話
劇が、僕にはちょっとピンと来なかった記憶がある。
しかし今回は、会話よりもそこに流れる情感のようなものが
巧みに感じられ、語るより見せる映画として成功しているよ
うに思われた。特に、日本映画ではとかく浮きがちなユーモ
ラスなシーンも丁寧に演出されて、気持ちがよかった。
出演は、西島秀俊、栗田麗、木下あゆ美。特に西島は、コミ
カルなシーンから恐怖シーンまで存分に演じているし、栗田
の存在感、木下の初々しさも良い感じだった。他には、キム
ラ緑子、北村有起哉、尾上寛之、田中哲司、松金よね子、利
重剛らが共演。
最近流行りの殺伐としたホラーとは一味違う怪談話。しかも
映像的には官能的なシーンもしっかりと描いて、かなり大人
の雰囲気の作品とも言えそうだが、監督が1976年生まれとの
ことで、その若々しさも良い意味で現れていた感じがした。
公開は10月の予定になっており、物語の背景は夏場の作品で
はあるが、秋が深まってからじっくり観るのも良いように思
えた。
『アメリカばんざい』
2005年に駐日アメリカ基地の矛盾を描いたドキュメンタリー
作品『Marines Go Home』を発表した藤本幸久監督が、アメ
リカ本国での戦争の現状を捉えた作品。
ヴェトナム戦争の時にはあれだけの反戦運動が巻き起こった
アメリカで、現在行われているイラクを含む中東戦争に対す
る反戦運動は、あまり大きな社会の動きとしては報道されて
いないような感じがする。
実はこの映画の最後では、アメリカ国内で反戦デモの映像な
ども登場するのだが、現実には行われていても、それが日本
などではほとんど報道されていないようだ。
もちろんそれは、1970年代に起きたほとんど暴動まがいのデ
モに比べればおとなしく行進するだけで、それではニュース
ヴァリューもないのかもしれない。しかし、それにしてもア
メリカ国内では反戦運動が起きていないかのような印象を持
つのは、無関心のせいだけでもないような感じだ。
その一方でハリウッドでは、2月に紹介した『告発のとき』
のような見事な反戦映画も作られているのだが、それでも世
論が動き出さないのは、何かが巧みに仕組まれている感じも
してくるものだ。
そしてこの映画では、戦争の矛盾、特にはいろいろな甘言で
若者を戦場に送り出していながら、その後のPTSDやホー
ムレスの急増にもなんら対策を講じようとしないアメリカの
現状が描かれる。
しかしそれでも戦場に向かう若者は後を絶たない。その矛盾
についてもこの映画は一応の回答を提示している。それは、
不況と貧困が若者たちに兵役以外の道を閉ざしているという
結論だ。
実際、兵役に付く若者の多くは家族を養うための職もなく、
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07月13日(日)
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