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On the Production
by 井口健二
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■蛇にピアス、おくりびと、ギララの逆襲、ブーリン家の姉妹、窓辺のほんきーとんく、ベティの小さな秘密、背/他2本、P.S.アイラヴユー
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※
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『蛇にピアス』
芥川賞を受賞して話題となった金原ひとみ原作から蜷川幸夫
が脚色監督した作品。脚色には蜷川監督の『青の炎』も手掛
けた宮脇卓也が協力している。
タトゥーやボディピアス、スプリットタンなど、マゾヒステ
ィックな身体改造を行う若者の行動を描く。ある種のSM文
学(映画)とも言えそうだが、そこには男女の純愛のような
ものも描かれている。
ただし、原作は読んでいないから文体などの評価は分からな
いが、物語で言えばちょっとハードな描写のある少女マンガ
といった感じで、それが新鮮に見えての賞の評価なのだとし
たら、確かにうまい線を狙い撃ったというところだろう。
それで物語のSMの部分は、タトゥーに関しては、何度も映
画化されている谷崎潤一郎の『刺青』のような名作もあるか
ら、それを超えているとは到底思えないが、ボディピアスか
らスプリットタンに至る辺りはそれなりに現代的で、その映
像化にはCGIも使われるなど面白いものになっている。
特にスプリットタンの描写は、本当にそんなにできたら凄い
わな…という感じで、思わず笑い出してしまうくらいのもの
になっていた。
しかし純愛ドラマの方は、確かに登場人物の1人が秋葉原の
通り魔事件にも象徴されるような、一種異様な若者の生態を
描いているようで、それはそれで評価はできるものの、全体
的には2人の男に愛を捧げられる若い女性の願望充足みたい
なもので、取り立てて新鮮な感じはしなかった。
しかも後半は多少ミステリー仕立てにもなる訳だが、それも
有り勝ちな展開で、あまり評価の対象になるようなものでも
ない。
とは言うものの、そんなある種の古典的とも言える純愛の物
語が、正直に純粋に曝け出されていることは確かな作品で、
その意味では、僕自身が何かほっとするような感覚も覚えた
ことは事実と言える。
最近の若者文化を描いた作品では、作者自身がドラッグに溺
れているのではないかと思うような訳の分からない作品が多
い中で、この作品は、さすがの蜷川監督がいろいろな状況を
踏まえて、大人にも判るように適切に物語を再構築した、と
言えそうだ。
『おくりびと』
死者の身体を清めて棺に納める納棺師という職業を描いた日
本映画。
元々納棺は亡くなった人の親族が行うものだったが、その後
に親族の依頼で祭礼業者に任されるようになり、さらにその
下請けで納棺だけを行う納棺師という職業が出てきたのだそ
うだ。従ってその職業自体にそれほどの歴史があるものでは
ないようだが、本作はその納棺師の協会が監修や技術指導に
も当って製作されているもののようだ。
主人公は、プロの楽団員を目指すチェロ奏者。しかし所属し
ていた楽団が解散し、大枚をはたいて購入したチェロの名器
も手放して新婚の妻と共に故郷に帰ってくることになる。そ
こには親との思い出の家もあったが、その思い出は良いもの
ばかりではない。
そんな主人公は職を探し始め、ふと目にした「旅のお手伝い
をする仕事です」という求人広告に、「旅行代理店かな」と
思ってその会社を訪ねてみる。そしてそこでは速攻採用され
てしまうのだが…そのお手伝いする旅とは。
こうして納棺師としての仕事を始めた主人公だったが、仕事
のことは妻にも言えず、また周囲からは非難の目で観られる
ようになってしまう。それでも主人公は、その仕事に意義を
感じるようになっていくのだが。
脚本はオリジナルのようだが、テレビで「カノッサの屈辱」
や「料理の鉄人」などを手掛けてきた小山薫堂が、テレビ番
組と同様の多彩なエピソードの積み上げと、蘊蓄に満ちた克
明な物語を作り上げている。
しかもそれは、人間に対する深い思いやりとユーモアに満ち
溢れ、極めて特異なシチュエーションの物語でありながら、
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06月29日(日)
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