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On the Production
by 井口健二
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■ミリキタニの猫、プロヴァンスの贈りもの、ブラッド、白い馬の季節、ミルコのひかり、阿波DANCE
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ミリキタニの猫』“The Cats of Mirikitani”
ジミー・ツトム・ミリキタニ(漢字は三力谷と書くそうだ)
は、カリフォルニア州サクラメント生まれの日系2世。3歳
の時に帰国して広島で成長するが、戦争の足音が高くなった
18歳の時に帰米。
ところが、日米開戦で12万人の日系人と共に強制収容所に送
られ、市民権の放棄まで強要される。以来、市民権のない彼
は社会の保護も得られないまま東海岸に流れ、一時は富豪の
家のコックなどもしていたようだが、ついには路上生活者に
まで身を落としてしまう。
しかし、子供の頃から画才のあったという彼(日本滞在中に
日本画の勉強もしていたようだ)は、路上で絵を描き続け、
現在その絵は高値で取り引きされているという。一見、手慰
みのようにも見える絵だが、実はしっかりした技術を持って
いるものだ。
彼自身は帰米によって原爆を免れたが、親族・友人はほとん
どそれで亡くなったようだ。ある意味、彼は第2次大戦の最
大の被害者かも知れない。彼の口癖はno warと、合衆国を指
して使うstupid country。彼は合衆国が自分たちにした仕打
ちを忘れてはいない。
彼は原爆の絵を描く。これは写真で見た原爆ドームから想像
して描いたものだろう。また収容所の絵も描く。これには絵
を描く彼自身も描かれている。「兄チャン、日本の猫の絵を
描いてよ」と話しかけてきた幼い男の子は、終戦を待たずに
病死したそうだ。
そんな彼の姿を追いつつ、この作品では2001年9月11日を契
機に合衆国が集団ヒステリー状態になって行く姿も捉えてい
る。それは日系人を襲った悲劇が、アラブ人に繰り返されて
いるようにも見える。ここでは、no warとstupid countryが
連発される。
しかし、彼の人生はここから急転する。グラウンドゼロから
舞い上がった埃で路上生活が危険になり、監督のリンダ・ハ
ッテンドーフが彼を自宅に引き取ったのだ。そして彼の人生
を調べ直した監督は、意外な真実を突き止める。
正にドラマティックな人生という感じだが、本人が実に淡々
として、しかも芸術家らしい頑迷さも兼ね備えているのが見
ていて面白い。その一方で、帰宅の遅くなった女性監督に対
して、実の娘を叱るように唇を震わせて怒るシーンなど人間
味も描かれる。
1人の人間とそれを取り巻く社会、それがバランスよく描か
れている。

『プロヴァンスの贈りもの』“A Good Year”
『南仏プロヴァンスの12カ月』が全世界で500万部以上を売
上げたという作家ピーター・メイルの小説を、リドリー・ス
コット監督がラッセル・クロウとフレディ・ハイモアの主演
で映画化したドラマ。
実は、メイルとスコットは同じロンドン広告業界で若いとき
を過ごした30年来の友人だそうだ。そしてこの物語は、スコ
ットが題材を見つけ出し、メイルがそれを小説にしたという
もので、2人の長年の友情に育まれた作品と言えそうだ。
リドリー・スコットの名前では、『エイリアン』『ブレード
・ランナー』から『グラディエーター』『ブラック・ホーク
・ダウン』まで、どちらかと言うと男性向きのアクション映
画が思い浮かぶ。本作はアクションではないが、もしかする
と男性向きの映画かも知れない。
人生の前半で成功を納めた男性が、後半を過ごす世界を見つ
け出す、そんな男の夢物語のような話だ。宣伝はロマンティ
ック・ラヴストーリーと銘打たれるだろうが、僕にはロマン
ティックというよりファンタスティックという感じがした。
主人公は、幼い頃に両親を亡くし、イギリス人だがプロヴァ
ンスにブドウ園を持つ叔父の家で成長する。そこでは人生や
いろいろなことを教えられ、彼にとっては最も幸せな時を過
ごしたはずだったが…
現在の彼は辣腕のトレーダー、生き馬の目を抜くロンドン市

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07月10日(火)
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