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On the Production
by 井口健二
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■ヒロシマナガサキ、馬頭琴夜想曲、スピード・マスター、レッスン!、題名のない子守歌、私のちいさなピアニスト
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ヒロシマナガサキ』“White Light/ Black Rain”
アメリカ在住の日系3世で、アカデミー賞ドキュメンタリー
部門に3度ノミネートされ、受賞歴も持つスティーヴン・オ
カザキ監督が、1981年に初めて広島を訪れて以来、25年の歳
月を掛けて完成させた長編ドキュメンタリー。
監督は、英訳された『はだしのゲン』を読んで広島、長崎の
被爆者についてもっと知りたいと思い、広島を訪れて取材を
開始。その結果、1982年に発表された『生存者たち』で最初
のノミネートを果たした。
その後、1995年にはスミソニアンで開催予定だった原爆展が
米国内の猛反発で中止され、それに伴い予定された映画の製
作も中止になるなどの挫折も味わうが、2005年には『マッシ
ュルーム・クラブ』で再びノミネートを勝ち取っている。
そのオカザキ監督が完成させた本作は、今年8月6日の広島
原爆投下の日に、HBOから全米向けに放送予定となってお
り、日本ではそれに先立つ7月23日から岩波ホールでの一般
公開が行われるものだ。
内容は、広島、長崎での被災者や、アメリカに渡った原爆の
乙女の1人の笹森恵子さん、『はだしのゲン』の作者の中沢
啓治氏、韓国人被災者の金判連さんなど原爆を直接体感した
人たちや、さらに原爆投下機エノラゲイの乗員、技術者への
インタヴューと、その間に当時の惨状を撮影した記録フィル
ムなどが挿入される構成になっている。
その構成は、多分にアメリカの視聴者を意識したものになっ
ているが、その中に現在の東京渋谷や原宿などの映像が挿入
され、そこでは1945年8月6日と聞かれて何も答えられない
若者の姿が写し出されると、何とも言えない気分になってし
まうものだ。
4月に紹介した『夕凪の町 桜の国』を観たときにも考えた
が、原爆はその瞬間の破壊力だけでは終わらないということ
を、僕らはあまり教えられてこなかったように思える。最近
ではそれ以前の原爆投下の事実すらあまり教育されていない
ようだが、平然と核軍備を口にするような政府の下ではそれ
も仕方がないのかも知れない。
今回の作品は、その意味でも重要な作品ではあるが、僕自身
はこの作品で不満に感じる点がない訳ではない。それは先に
も書いた、後遺症やその後の差別の問題があまり描かれてい
ないことだ。しかしそれは、アメリカ人の監督に任せるので
はなく、自分たちの問題として日本人の監督が描かなくては
いけないものなのだろう。

『馬頭琴夜想曲』
1918年生まれ、41年日活入社以来、鈴木清順監督の『けんか
えれじい』や、伊丹十三監督の『タンポポ』、熊井啓監督の
『千利休』など、日本映画の歴史を支えてきた美術監督・木
村威夫が、2004年の『夢幻彷徨』から映画監督のメガホンを
取り始めたその第3作。
実は『夢幻彷徨』の試写状も貰っていたが、時間が合わずに
見逃したもので、今回は初めて木村監督作品を鑑賞した。
試写会では先に監督の挨拶があり、そこでこの作品に掛けた
思いなども語られたが、本作まではいずれも短編で、いろい
ろな試みはしているが助走段階のもの。ちょうど初長編を撮
り終えたばかりなので、評価はそれを観てからにして欲しい
というような話だった。
そして本作に関しては、ボーイソプラノとモンゴルの馬頭琴
という2つの題材から作った物語で、撮影では敢えて映画の
セオリーを外しているとの説明もあった。
という作品だが、まずは確かに実験的な要素も多い作品で、
見方によっては他愛ない作品とも言える。テーマの根底には
長崎の原爆があって、その辺りは日本人としてちゃんと受け
とめたいという気持ちにもなるが、全体として強いテーマに
なっている訳ではない。
元々が美術監督であるから、美術的な面ではそれぞれ観られ

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06月10日(日)
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