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On the Production
by 井口健二
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■夕凪の街桜の国、明るい瞳、パンズ・ラビリンス、アーサーとミニモイの不思議な国、JUST FOR KICKS、リーピング、天然コケッコー
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『夕凪の街 桜の国』
こうの史代が第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞したマンガ
作品の映画化。原作は2003年と2004年に雑誌掲載後、ほぼ同
量を書き下ろしで出版されているが、昨年9月には第17刷が
出るほどのロングセラーになっているものだ。
原作の物語は、昭和30年の広島を描いた「夕凪の街」と、平
成16年を背景にした「桜の国」の2部構成になっている。そ
して「夕凪の街」では、昭和20年の原爆投下から10年を経て
も苦しみの消えない被爆者の姿を描いたものだ。
実は、昨年9月19日にこの作品の記者会見があって、その時
に一部映像をテレビモニターで見せてもらっていたが、その
時は一緒に渡された原作の複雑な構成をどのように映画化し
たか見極める必要があると思い、紹介を控えてしまった。
しかしそれは全く杞憂だったようだ。昨年『出口のない海』
という立派な反戦映画を作り上げた佐々部清監督は、今回は
戦争が一般市民にもたらす悲劇を淡々と、心にしみ入るよう
に作り上げている。
物語のテーマとなる原爆症によって年月を経てから死亡する
人々の話は、実は僕の子供の頃には、テレビやマンガなどで
もよく見かけたものだ。
今まで普通に元気に暮らしていた人が、ある日、突然首筋に
斑点が出て、血を吐いて死んでしまう。それを救うための祈
りを込めて千羽鶴を折り続けるといった話は、1960年代頃ま
ではたくさんあったような気がする。それがいつのまにか消
えてしまった。
もちろん、核武装を平然と唱えるような連中が政権を握って
いる国家だから、非核に繋がる物語は、だんだん一般の人の
目の届かないところに追いやられてしまっているだろうが、
そんな中で、自分でも忘れかけていたこのような話を思い出
させてくれたことには、本当に嬉しい思いがした。
そして、今でも密かに差別が行われているという、思いもし
なかった現実を教えてくれたことにも、感謝したい気持ちで
一杯になる。第2次世界大戦がもたらした悲劇は、まだ終っ
てはいないのだ。
出演は、田中麗奈、麻生久美子、藤村志保、堺正章。他に吉
沢悠、中越典子、井崎充則、金井勇太らが共演。また映像で
は、昭和30年代の「原爆スラム」などが、見事なVFXで再
現されている。
なお、本作を製作したのはアートポート。洋画配給なども手
掛けるインディペンデントの映画会社だが、実は大手ではこ
の企画は通らなかったのだそうだ。ここはぜひとも本作を大
ヒットさせて、拒否した連中を見返してもらいたいものだ。

『明るい瞳』“Les Yeux Clairs”
少し精神を病んでいるかも知れない女性が、一緒に暮らして
いた兄一家の許を飛び出し、新たな世界を見いだして行く姿
を描いたフランス映画。2005年製作。同年のベルリン映画祭
フォーラム部門で上映、本国ではジェローム・ボネル監督が
新人賞に相当するジャン・ヴィゴ賞に輝いている。
ファニーは時々奇妙な言動に走る。そんな彼女を兄のガブリ
エルは優しく見守ろうとするが、兄嫁のセシルには疎ましい
だけの存在だ。そして表面は優しく、裏では意地悪なセシル
の対応に、ついにファニーは家出を決意する。
目的地はドイツの小さな村、そこには彼女が葬儀に参列出来
なかった父が埋葬されている。そしてその目的地に向かう道
中で、彼女はいろいろな人と出会い、その交流の中で自分自
身を見つけ出して行く。
本作は2005年のフランス映画祭でも上映されており、その際
のコスタ=ガブラス訪日団長の解説では、「彼女は病気かも
知れない、しかしそれは重要なことではない」と語っている
そうだ。確かにファニーの行動はちょっと変だが、そのこと
は物語のテーマではない。
物語は、人との出会いの中で、自分自身がどういう人間であ

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04月30日(月)
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