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On the Production
by 井口健二
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■東京国際映画祭2006コンペティションその1
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※このページでは、東京国際映画祭のコンペティションで※
※上映された作品から紹介します。          ※
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『魂萌え!』
今年も日本からは2本選出された内の1本。桐野夏生の原作
を、『亡国のイージス』などの阪本順治が脚色監督した。
主人公は59歳の専業主婦。夫は定年退職となったが、かと言
って彼女自身の生活はあまり変わるものでもない。しかし、
突然夫が他界して告別式も終った日、夫の携帯電話が鳴りだ
して、受信すると親しげな女性の声が聞こえてきた。
一方、夫が趣味と言っていた蕎麦作りの会には毎週通ってい
たはずなのに、弔問に訪れた会長の言葉では、最近はあまり
顔を出していなかったという。果たして毎週出かけていた夫
は、その間どこで何をしていたのか。
これに、アメリカに渡ったままだった長男が葬儀で帰国する
や遺産相続として家屋を要求したり、見ず知らずだった老女
の面倒を見ることになったりと、平凡だった主婦の生活に、
ジェットコースターのような波乱が巻き起こる。
まさに波乱万丈という感じのお話だが、僕自身が主人公と同
じ団塊の世代の人間として周囲を見渡すと、これが結構思い
当たるような部分も多々あるものだ。それに物語には多分に
痛快な要素も含まれていて、見ていて拍手を贈りたくなるよ
うな作品だった。
正直に言って、死んだ夫も含めて、僕が男として共感を呼べ
るような男性は出て来なかったが、妻がこんな風に元気でい
てくれるのなら、僕も先に逝ってしまっても良いかなとも思
えて、何だかほっとさせてくれる作品でもあった。
なお映画の後半には、映画ファンにはサーヴィスのような展
開もあって、それも嬉しく感じられるところだった。

『ロケット』
20世紀前半にロケットの愛称で親しまれた実在のフランス系
カナダ人のアイスホッケー選手、モーリス・リシャールの半
生を追った作品。
フランス系であるがゆえにイギリス系が支配するスポーツ界
では数々の差別を受け、それでも前人未踏の大記録を打ち立
てたり、劣勢の試合を大逆転に導いたりする。そんな不屈の
闘志と何より闘争心を体現した選手。しかも彼自身は寡黙で
差別に異議を唱えることもなくゲームに邁進し続ける。
そんなリシャールだったが、選手としても絶頂期のある試合
中に、相手選手の悪質な行為に反撃した暴力行為でリーグか
ら出場停止処分が下される。そしてそれを理由にチームが彼
の解雇を決めたとき、それは同様の差別に欝積していた人々
の心に火を点ける。1955年3月17日、カナダ史にも名を残す
リシャール暴動が発生したのだ。
と言うリシャールの半生が、1932年からの戦前戦後の記録映
像も絡めて描かれる。映画ではドラマ部分もかなり色調を落
として描かれ、モノクロの記録映像との違和感も少なくなる
ように工夫されていた。また、一部には映画の出演者が記録
映像に合成されたりもして、それも良い感じだった。
ただ、これは日本語版だけの問題だが、仏英2言語で話され
ている台詞が字幕で区別されていない。このため映画の後半
で、それまでは英語でしか話さなかったコーチが、初めてメ
モを見ながらたどたどしいフランス語で選手を称えるシーン
は、本来なら最高に感動的なシーンとなるはずのものだが、
それが理解し難かったのは、少し残念な感じがした。

『アート・オブ・クライング』
1970年代前半のデンマーク・南ユトランド地方を舞台にした
家族のドラマ。
精神的に過敏で、直ぐに自殺を図ろうとする父親。そんな父
親に妻は諦め顔で、長男は家を出て都会で暮らし、長女は暴
走族と付き合っている。11歳の次男の主人公はそんな一家を
必死に纏めようとしているが、すでに家庭は崩壊寸前だ。
しかしその父親には、葬儀で会葬者全員が涙するほどの弔辞
を述べるという特技があった。そして父親がまた自殺を図っ
たとき、主人公は家族を平穏に保つため、父親が弔辞を述べ

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11月05日(日)
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