ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■百年恋歌、合唱ができるまで、レディ・イン・ザ・ウォーター、世界最速のインディアン、13の月、椿山課長の七日間、アントブリー
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『百年恋歌』“最好的時光”
台湾の名匠・侯孝賢監督による2005年作品。
1966年、1911年、2005年、それぞれの時代を背景にした3つ
の恋物語を、『グリーン・ディスティニー』などのチャン・
チェンと、『トランスポーター』などで国際的にも活躍する
スー・チーの主演で描く。
第1話(1966年)は、兵役で入営の通知が来た若者と、彼が
通っていたビリヤード場の女店員が主人公。2人はそれほど
深くつきあっていたわけではないが、入営から3カ月後、休
暇でビリヤード場を訪れた若者は、姿を消した女性を追って
各地をさ迷う。
第2話(1911年)の主人公は、遊郭の芸伎と常客の外交官。
2人の間には客と芸伎以上の通い合う想いがあったが、外交
官には国を背負った使命があり、芸伎の愛をた易く迎え入れ
る訳には行かない。申亥革命前夜の物語。
第3話(2005年)は、クラブ歌手とカメラマンの恋。出逢か
ら互いに惹かれ合うものを感じる2人だったが、現代の愛の
顛末は単純なものではない。
まずは、たった100年足らずで人の姿や風景がこうも変って
しまったのかと驚かされる。この変化は、台湾に限らず日本
も同じなのだろうが、戦前を描く第2話は別としても、第1
話と第3話の違いは、これらの時代を知る自分にとっては、
特に衝撃的だった。
それにしても、第1話の大らかな描き方と、第3話の閉塞感
で一杯の描き方は、監督の心情をそのまま表わしているのだ
ろうか。その一方で、不自由だが人々が雄々しく生きている
第2話と、自由だが生きる方向性の見いだせない第3話の対
比も鮮やかだ。
結局、これらの対比が強く印象に残る作品だが、その順番が
閉塞した現代で終ることが、何とも観終えたときの気持ちを
沈んだものにさせてしまう。
正直に言って、自分がこの映画の編集者なら、第1話を分割
して第2話、第3話の前後に割り振った構成にする。その方
がまだしも救いが感じられるはずだが、監督はそのような救
いをも否定したい気持ちなのだろうか。
なお、第2話はサイレント映画の形式で、主人公らの会話の
演技の後に字幕が出る仕組みになっている。それと伴奏音楽
が流れるが、その「南管」と呼ばれる歌曲をスー・チーが歌
うシーンだけ、音楽と口が合わされているというのも不思議
な感じだった。
因に、音楽では、第1話には「煙が目にしみる」など共に、
「星は何でも知っている」「江差恋しや」の日本歌曲の台湾
語版が使用されていた。また第3話のクラブのシーンでは、
スー・チー自身が歌っている姿も写されているものだ。
侯孝賢監督作品は、1998年の『フラワーズ・オブ・シャンハ
イ』以降、『ミレニアム・マンボ』『珈琲時光』と見てきて
4本目だが、ちょうどその3本のまとめのような作品だ。次
からは、また別の顔の侯孝賢が見られるのだろうか。
なお、9月30日から東京渋谷で侯孝賢作品15本などを上映す
る映画祭も行われている。

『合唱ができるまで』“Les Metamorphoses du Choeur”
パリ13区にあるアマチュアの合唱団が、教会でのミサ・コン
サートで歌うために練習を重ね、それが完成するまでを描い
たドキュメンタリー。
その合唱団には子供のグループと大人のグループがあって、
それぞれが独立して練習を積んで行く。そのジェスチャーを
交えた特異な指導法から、発声の訓練、また演奏されるミサ
曲の説明まで、音楽への多面的な取り組みがみごとに98分の
中に描かれている。
合唱の指導をしているクレール・マルシャンは、合唱指導の
第一人者と言われる女性のようだが、その巧みな指導ぶりに
は、思わず自分もその指導を受けてみたい気持ちになった。
実際、映画を見ながら、密かに声を出したり呼吸を整えたり
もしていたものだ。

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09月29日(金)
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