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On the Production
by 井口健二
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■深海、タイヨウのうた、日本沈没
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※
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『深海』“深海”
昨年の東京国際映画祭・アジアの風部門(台湾‥電影ルネッ
サンス)で上映された作品。
監督チェン・ウェタンの前作は、一昨年の映画祭ではコンペ
ティションで上映され、実はその時はあまり評価しなかった
のだが、今回はそれなりに物語も理解できるものだった。
主人公の女性は、刑務所から出所したばかり。その罪が何だ
ったかは映画の後半で明らかにされるが、取り敢えずは「頭
の中でスイッチが入ると、それを自分では切れなくなるから
薬を飲み続けている」という台詞が紹介される。
つまり、直情的というか、感情の抑制の利かない心の病を抱
えた女性ということだ。その主人公が出所しても行き場が無
く、刑務所で声を掛けてくれた年上の女性の許を訪ね、台湾
南部の港町高雄にやってくる。そして彼女の経営するクラブ
で働き始めるが…
そこで容姿の優れた主人公は、男性たちに言い寄られる。そ
して最初は、彼らの期待通りにことは進むのだが、やがて彼
女の感情は男を独占しなくては済まなくなり、男はそれが煩
わしくなる。
物語では、心の病として顕著化されているが、このような感
情は男女を問わず多くの人が持っていると思うし、それが愛
しく思えるか煩わしくなるかは紙一重のことだろう。このこ
とがこの映画では、心の病ということで強調されているだけ
のようにも感じた。
だからこの映画では、実は普遍的な男女の関係を描いている
のでもあり、逆に心の病とすることで一歩距離を置いて見ら
れる分、その状況がより明白になっているようにも思える。
特に僕は男性として、この物語の女性の立場には同情した。
そして物語は、最後にある種の救いを描き出す。それ自体が
救いであるかどうかは判らないが、それによって周囲の人の
目が開かれて行くことには、きっとその後に救いがあると思
える結末だ。
「深情似海」というのが、監督がこの物語を作り出す切っ掛
けになった言葉だそうが、海のように深い愛情というのは、
当事者にとっては負担であったり捉え方は様々だろう。でも
そんな深い海の中を男女は泳いでいるということだ。
『タイヨウのうた』
XP(色素乾皮症)という紫外線に当たると皮膚癌を発症す
る難病の少女と、サーファー少年の恋を描いた鎌倉七里が浜
が舞台の作品。
音楽の好きな少女は昼間は出歩けないため、夕方まで寝て、
深夜ギターを抱えて駅前でストリートライヴを行っている。
しかし、日の出までには帰宅し、帰宅した少女は寝るまでの
間、紫外線遮断のスクリーンを下ろした窓から早朝のバス停
を眺める。そのバス停にサーフボードを抱えて現れる少年を
見るために。
そしてある夜、ライヴを始めようとした少女の目の前を、そ
の少年が通り過ぎる。咄嗟に少女は少年の後を追い、捕えて
自己紹介をするが…
この手の難病ものは、ここに来て何本も紹介しているように
思えるが、お手軽に感動を呼べるということでは作り手も気
楽なのだろうし、製作資金も出してもらいやすいのかも知れ
ない。それにしても、世の中には実にいろいろな病気がある
ものだ。
この映画のプレス資料には、XPの説明コラムもあり、現在
は国の難病指定も受けられていないという、この病気の現状
も紹介されている。コラムにあるように、この映画でその方
面への働き掛けが進めば、それも良いことと言えるだろう。
しかし、それがプレス資料を読まなければ判らないのは多少
問題だ。その現状は、やはり映画の中でもっと語られるべき
だと考える。その意味では、僕は映画そのものには納得でき
なかったが、紹介はしなければならないと感じるものだ。
また映画は、主演に歌手のYUIを起用して、音楽を前面に
出した作りになっている。このYUIの歌自体は悪いとは思
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05月31日(水)
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