ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■博士の愛した数式、ソウ2、TAKESHIS’、ハリー・ポッターと炎のゴブレット
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『博士の愛した数式』                 
『雨あがる』、『阿弥陀堂だより』の監督小泉堯史、主演寺
尾聰のコンビによる第3作。2003年に発表された小川洋子に
よる同名の小説の映画化。               
80分間しか記憶を保てない天才的数学博士と、博士の身の回
りの世話をするために派遣された家政婦、そして彼女の息子
の物語。                       
最近、記憶の問題を扱った作品は実に多いが、本編もその流
れを汲む。そしてこの作品では、80分というタイムリミット
が設けられ、このタイムリミットの中での博士と母子の交流
が描かれて行く。                   
以前にも書いたように、自分の身内にも老人性ではあるが記
憶傷害の患者を持つ者としては、この種のドラマは必要以上
に真剣に見てしまっていると思う。その目で見てこの作品で
は、深津絵里が演じる家政婦の対応が素晴らしいものに感じ
られた。                       
患者は前日の記憶を持っていないのだから、通いの家政婦の
場合は毎日が初対面となる。そこでは当然同じ質問が繰り返
される。ここで最初はその質問に答えるのだが、次に同じ質
問をされると、彼女はその回答に対する博士の説明も先回り
してしまう。これによって博士が同じ説明をする無駄を省い
てしまっている。                   
もちろんそこに至るまでには試行錯誤があり、映画はそれを
省略したという設定かも知れないが、この対応の仕方一つに
も感心してしまった。                 
実際、自分の身内はもっと短時間の記憶傷害で、もっと頻繁
に同じ質問を繰り返してくるが、僕はそれに何度でも同じ回
答を繰り返してきた。周囲から見るとそれも異様ではあるよ
うだが、僕は割り切ってそれをしているものだ。     
つまり僕には、この家政婦のような応対はできなかった。自
分ではそうすることが患者を傷つけるのではないかと思った
部分もあったが、ここで描かれた対応の仕方には、改めて納
得してしまったものだ。                
ということも含めて、本作は記憶傷害の患者との交流が巧み
に描かれた作品ではあるのだが、実はこの映画のテーマはそ
こだけにあるのではない。この作品では、数学という学問が
実に魅力的に描かれているのだ。            
この点について原作者の小川は、試写会後に行われた記者会
見で、「小説では描き切れなかった公式の美しさが、映画で
は見事に表現されていた」と語っていたが、実際に黒板にチ
ョークで説明されて行く完全数や友愛数の物語は、実に魅力
的なものだった。                   
同じ記者会見で寺尾も言っていたが、これによって数学離れ
の進む日本の学生が数学に興味を持ってくれたら、それも映
画の素晴らしい効果と言えそうだ。それこそ、日能研の算数
の先生に推薦文でも書いてもらいたいような作品だった。 
なお記者会見の中で、記憶傷害のはずの博士と母子の交流が
徐々に深まっていくように見えることについて質問が出た。
それに対する制作者の回答は「フィクションですから」とい
うものだった。                    
しかし最近になって、脳以外の臓器にも記憶能力があるとい
う説が登場してきている。従って、これは制作者の意図では
ないかも知れないが、この映画でそれを感じられたことは、
僕にとっては多少の希望も持ちたくなるような素晴らしい展
開にも感じられた。                  
                           

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10月31日(月)
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