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On the Production
by 井口健二
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■誰がために、風の前奏曲、セブンソード、ある子供、理想の恋人.com、イド
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※
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『誰がために』
少年犯罪被害者の遺族の心情を描いたドラマ。黒木和雄監督
作品などで助監督を務める日向寺太郎監督の第1回作品。
従来の少年非行とは全く異なる個人による殺人という形の少
年犯罪。神戸の事件以来顕在化したこの事象は、今も全く収
束せず連綿と続いている。
最近では長崎に事件において、その被害者の遺族が報道人で
あったことからその心情も公開されているが、この場合は、
被害者と加害者が友人であったという事実に対し、それを普
遍化しようとする遺族のやり方がそぐわない感じがして、違
和感を感じるものだ。
それに対してこの映画では、全くの通り魔的殺人、しかも被
害者を成人女性として全くの普遍化を行っている。これこそ
が自分たちも直面する可能性のある出来事であり、その遺族
の心情に近づけるものと言えそうだ。
主人公は、街で写真館を営む男性。ある日幼なじみだった女
性が連れてきた彼女の学友とつきあい始め、彼女の不幸な生
い立ちなどに触れるうちに結ばれる。そしていわゆる出来ち
ゃった結婚となるが、周囲は彼の人柄などもあって歓迎され
た結婚となる。
見よう見真似で彼の仕事を手伝いながら、赤ん坊の誕生を待
つ幸せな日々。しかしそれも束の間、買い物帰りに後を付け
てきた少年に襲われ、命を絶たれてしまう。その少年はすぐ
に逮捕されるが、少年法の壁によって被害者の遺族には審判
の傍聴も許されない。
これに対して主人公は、審判記録を読んだりもするが、彼の
心の中のわだかまりは消えることなく、彼の心の中では事件
は全く解決されぬままに時が過ぎて行くことになる。
そんな主人公に、一人のルポライターが接近し、彼に加害者
の情報を提供し始める。そして加害者が社会復帰して、何事
なかったように暮らしている事実を知らされる。
神戸の加害者の社会復帰は地元を離れてのようだが、社会的
に注目された事件でもない限り、この映画のように何事もな
かったかのように元の生活に戻ってしまうケースは、今の日
本ではありうる話だろう。
またそれが離れた場所であったとしても、主人公の行動が制
約されるものでもない。そんな現実に起こりうる物語として
映画の後半は描かれる。
ここで主人公の取るべき行動はどのようなものであるか。主
人公自身は、一時を過ぎれば注目を浴びている訳でもなく、
そうなったときにこの映画に描かれた行動は、確かに自分で
も取ってしまうかもしれないように感じられた。
2年ほど前に『息子のまなざし』というベルギー映画を紹介
している。そこでも、加害者と被害者の遺族の関係が描かれ
ていたが、ある種の寛容をもってするベルギー作品には、こ
こまでしなくてはいけないのか、という反発に似た感情も持
った記憶がある。
それに対してこの作品では、敢えて日本的とも言って良いよ
うな主人公の行動がいちいち納得できた感じがした。一方で
このようなことを個人でしなくては、自分が納得することも
できない、それが日本の現実だということも教えられた感じ
もしたものだ。
逆にこの事実を踏まえると、ベルギー作品では、あの様な寛
容の気持ちも持てる何かが社会的に存在するのではないか、
そんなことも考えたが、本作の舞台は東京の下町、その人情
の中でも、主人公の気持ちは変らないというのが現実なのだ
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09月14日(水)
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