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On the Production
by 井口健二
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■ランド・オブ・プレンティ、ARAHAN、大停電の夜に、アクメッド王子の冒険、モンドヴィーノ、親切なクムジャさん
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※
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『ランド・オブ・プレンティ』“Land of Plenty”
2001年9月11日以後のアメリカを描いたヴィム・ヴェンダー
ス監督作品。本作は、昨年のヴェネチア映画祭のコペティシ
ョンに出品され、ユネスコ賞を受賞している。
主人公は、パレスチナから帰米したばかりの20歳の女性と、
その叔父。女性は共産主義者の母親と宣教師の父親の間で育
てられ、アメリカ生まれではあるがアフリカからパレスチナ
までを転々として、2003年9月12日にロサンゼルスに帰って
きた。
彼女の帰国の目的は、母親からの手紙を叔父に手渡すこと。
しかしその叔父は、同時多発テロ以降、私設の監視部隊を作
って怪しい行動のアラブ人の動きを見張り続けているという
愛国者で、過去に送られた妹の手紙は全て無視し、姪の彼女
とも会おうとしない。
ところが、彼の見張っていたアラブ人が彼女が身を寄せてい
る教会施設の前の路上で射殺されたことから、互いに名乗り
合うことになる。そして彼女はアラブ人の素性を洗い出し、
陰謀の存在を探ろうとする叔父と共に、遺体を親族の許に返
すための旅に出るが…
ヴェンダース自身、WTC崩壊の生映像を見ながら「人生が
変わる」と呟いていたそうだが、ドイツ人でありながらアメ
リカで暮らしている彼にとって、その映像は衝撃であると同
時に未来への危惧でもあったのだろう。その危惧は日本で見
ていた僕も感じたものだ。
そして彼が危惧した通り、アメリカ=アメリカ人は瞬くうち
に変容して行くことになる。この映画ではその変容したアメ
リカ人の代表として叔父の姿がある。ヴェンダースは、この
叔父をかなり戯画化して描くことによって、危惧を訴えてい
る。
ヴェンダースはこの映画を、マイクル・ムーアに似ていると
認めている。しかしムーアのように扇情的に声高に訴えるの
ではなく、あくまでも穏やかに、そして映画の中の叔父がそ
うであるように、アメリカ人自身が、自ら気付いてくれるこ
とを望んでいるようだ。
もちろんそこには、グローバルな視野を持った若い女性を配
することによって、彼自身の意見も代弁させてはいるが、そ
れもあくまでも補助的な描き方に抑えているのは、現在暮ら
しているアメリカへの遠慮と言うよりは、大人の思慮という
感じがした。
そしてこの作品がアメリカで、ヴェンダースの最高作と呼ば
れるほどの高い評価を受けているのは、彼の意図が充分にア
メリカ人にも受け取られたということなのだろう。
なお、撮影はHDで行われたようだ。さすがに走査線が目立
つようなことはなかったが、画質はかなり劣っているシーン
がいくつかあった。使用されたのはパナソニックの機材のよ
うだが、その画質は、映画が素晴らしいだけにちょっと恥ず
かしい気がした。
『ARAHAN』“阿羅漢”(韓国映画)
『SHINOBI』に続いてアルファベットの邦題だが、こ
ちらは韓国性のアクション映画だ。
因に原題(ハングル)に添えられた漢字題名は、1987年に公
開されたリー・リン・チェイ(後のジェット・リー)主演の
中国映画の邦題と同じだが、中国映画の原題は“南北少林”
だったようで、ちょっとややこしい。
ただし、その中国映画の解説によると、「阿羅漢」とは最強
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08月31日(水)
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