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On the Production
by 井口健二
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■第72回
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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 前回に続いて、ソニーのMGM買収についてもう少し書か
せてもらう。
 前回、最後で危ない賭けと書いたが、今回の買収劇で一番
気になるのは、その買収資金の調達の仕方だ。
 以前にソニーがコロムビアを買収したときには、その資金
の大半は銀行からの借入金だった。このように銀行から借り
入れの場合には、以後は、その利息分だけ払い続ければ、借
入金の元本が膨らむことはない訳で、実際に、「コロムビア
には利息分だけ稼いでもらえればいい」というような話を、
当時コロムビア買収の中枢にいた人から聞いたことがある。
ただし、後年ソニーはその総額を一括返済しており、現在は
その分の借入金は解消されている。
 ところが今回のMGMの買収では、複数の投資家グループ
との共同で買収したということで、実は、今回の買収額の総
額50億ドル弱の内でソニーが用意したのは3億ドル程度、残
りの40数億ドルはその投資家グループが資金を提供したとさ
れている。これだけで読むと借入金もなく健全そうに見える
のだが、実際の契約では、ソニーは投資家グループの出資金
を順次買い取って、最終的には総額をソニーが支払うという
もので、つまり分割払いの契約を結んでいるものなのだ。
 実際問題として、投資家グループなる人たちが映画会社の
権利を持っていても、その運用ができなければ何の意味もな
い。では何のために資金を出したかといえば、それは、この
分割払いの間の利息を儲けるためのもの。つまりソニーは、
クレジットでMGMを買ったようなもので、そのお金は必ず
返済しなければならないし、その間の利息は、当然銀行から
の借り入れよりも高いものと考えられる。ソニーはそういう
資金に手を出しているということなのだ。
 もちろん、企業の運営において、大きな投資をする場合に
は資金の借り入れは当然のことだし、それが銀行であれ投資
家グループであれ、双方が綿密な調査の上で決定しているこ
とは間違いない。しかし、今回の買収では銀行が動かなかっ
た分だけ、リスクも大きいものだったと考えられる。
 さて、ソニーがそれほどのリスクを負ってまでMGMを買
収する理由だが、これはもうDVDの次期規格を巡る覇権争
い以外には考えられない。実際ソニーの連結決算では、ここ
数年収支の改善が見られないが、実は、本体の電機メーカー
の部分はさらに大幅な赤字で、それを他のゲームや映画、金
融などの黒字で補填している状態なのだ。ここで電機メーカ
ー部分の不振は、ウォークマンなどのようなヒット作が生ま
れないことによるものだが、その電機メーカーとしてヒット
を狙うために必要なのが、DVDの次期規格の覇者となるこ
となのだ。
 現在ソニーは、DVDの次期規格としてブルーレイ・ディ
スクを提唱しているが、今回MGM買収を争ったワーナーは
東芝と提携しており、その東芝は別の規格の陣営に属してい
る。従ってMGMがワーナー傘下に入ると、MGM作品の全
てがその規格でソフト化されることになり、これはブルーレ
イ・ディスクの将来にかなりの脅威となるものだった。
 しかし、ソニーがMGMを買収したことで、ブルーレイ・
ディスクの将来にも明るい展望が開けてくることにはなった
ものだが、まだその覇権が完全に決まったものではなく、こ
れでももし覇権が取れないとなると、それはソニーの浮沈に
も関わってくることになりそうだ。ソニーの危ない賭けは、
まだまだ続いているのだ。
 もっとも、映画会社としては、本社の業績がどうなろうと
あまり関係ない訳で、ここでコロムビアがMGMを買収して
どうなるかを映画会社として見ると、いろいろ面白いことが
起こりそうだ。

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10月01日(金)
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