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On the Production
by 井口健二
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■コズモポリス、野蛮なやつら、ふたたびの加奈子、コドモ警察、食卓の肖像、フリア/よみがえり少女、孤独な天使たち、シュガーマン
それにしても1941年生まれの監督が、実に瑞々しい作品を生
み出したものだが、しかもその中にはインターネットや携帯
電話なども駆使されており、若者にも取り付きやすい作品に
仕上げられているのはさすがという感じだった。
出演は、映画初出演のヤコポ・オルモ・アンティノーリと、
写真家としても認められているというテア・ファルコ。共に
オーディションで見出された2人が、見事に監督の期待に応
えている。
なおベルトルッチ作品では、1968年発表で日本では劇場未公
開のままソフト化もされていなかった『分身』“Partner.”
の公開も行われる。この作品はドストエフスキーの原作を映
画化したものだが、制作当時のヌーヴェルヴァーグの影響を
色濃く受けており、面白いものだった。
この他にも、1962年発表『殺し』“La commare secca”と、
1964年発表『革命前夜』“Prima della rivoluzione”の、
ディジタルリマスター版による再上映も行われるようだ。

『シュガーマン 奇跡に愛された男』
“Searching for Sugar Man”
サンダンス映画祭で観客賞と審査員特別賞をW受賞し、モス
クワ国際映画祭では最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞、
24日に発表される米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー部
門の候補にも挙げられている作品。
1970年代に2枚のアルバムだけを残し、忽然と姿を消した幻
のシンガー=ロドリゲスを追った音楽ドキュメンタリー。
ロドリゲスはデトロイトの川沿いのバーで歌っているところ
を音楽プロデューサーに見出され、レコード会社と契約して
2枚のアルバムを発表する。しかしそのアルバムはアメリカ
国内では全く売れず、レコード会社からも契約を解除されて
しまう。
こうしてロドリゲスの姿はアメリカの音楽シーンから消えて
しまうのだが、彼の歌声は地球の裏側の南アフリカで流れ続
けていた。その経緯は定かではないが、南アでは3社のレコ
ード会社からアルバムが発売され、その総数は100万枚に達
していたとも言われている。
そんなロドリゲスだが、南アで発売されたレコードには写真
が1枚あるだけで経歴などの紹介はなく、南アのリスナーに
とってその歌手は謎の人物であった。そしてその歌手には、
ヒット曲が出ずにライヴも上手く行かず、その舞台上でピス
トル自殺したという都市伝説まで生まれてしまう。
しかし1990年代、1人のジャーナリストがロドリゲスの跡を
追い始める。それはまず印税の行方から調べるが、金の流れ
はあっという間に不明になってしまう。それでも軍隊時代に
ロドリゲスの代表曲に由来するあだ名を持った愛好家の男性
が、ある歌詞の中からヒントを見つけ出す。
こうして彼らは1歩1歩、ロドリゲスに近づいて行ったが…
その結末はまさに感動のシーンを生みだすことになる。
映画の題名にもなっている「シュガーマン」は麻薬売人を示
す淫語で、そこから判るようにロドリゲスの歌詞には反体制
的な表現が多い。それは映画の中でも「ボブ・ディランがソ
フトに聞こえる」とも表現される程だ。そんな歌は1970年代
のアメリカではもはや時代遅れだったかもしれない。
しかし反アパルトヘイトの運動が高まる南アは、まさにその
歌詞が歌い継がれる状況だったのだろう。僕自身、70年代は
昨日まで反戦歌を歌っていたフォークシンガーたちが、あっ
という間に歌謡曲歌手に変身する姿を見てきた者としては、
ここに描かれる物語には感動以上のものを感じてしまった。

02月20日(水)
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