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On the Production
by 井口健二
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■ファイヤー・ウィズ…、ヒンデンブルグ、テッド、SUSHI GIRL、VANISHING POINT、さまよう獣、ディラン・ドック、ナンバーテン・ブルース
トナム(当時)で戦火のなか全編ロケを敢行。75年7月に完
成はされたものの、その後は一度の公開も行われることなく
幻の作品と言われていたアクション映画。
そのフィルムは長らく行方不明だったが、今年5月に所在が
判明し、現在は公開に向けての準備が進められている。その
作品を特別上映会で鑑賞させてもらった。
舞台は、1975年2月のサイゴン。主人公はその街に駐在する
日本人商社マン。戦争のことは知っているがまだサイゴンの
街中は平穏そのものだ。それより街にはアメリカ軍の落とす
金が目当てのいろいろな輩が巣くっている。主人公もそんな
1人と言える。
そんな主人公の住居に、以前に会社をクビにした現地人の男
が侵入し、主人公は揉み合いの中でその男を殺してしまう。
ここで警察に届けても長く咎められるだけだと判断した主人
公は、その遺体を隠すことにするのだが、そこに男の許嫁と
称する女性が現れる。
しかもその女性は地元の顔役に通じて主人公を追い詰める。
そこで主人公は会社の隠し金を引き出し、現地の恋人と、付
いてきた日系人2世の男と共に、香港行の密航船が出発する
北端の町フエを目指して逃避行を開始するが…。
出演は川津祐介、当時の南ベトナムのNo.1女優で歌手のファ
ン・タイ・タン・ラン。他に磯村健治、ドァン・チャウ・マ
オ。さらに『帰ってきたウルトラマン』のスーツアクターと
しても知られる殺陣師のきくち英一らが脇を固めている。
脚本と監督は、本作の翌年に『犬神家の一族』の脚本を手掛
ける長田紀生。なおスタッフには、本作の後に『南極物語』
『敦煌』を担当する撮影の椎塚章や、助監督として『雨あが
る』の小泉堯史監督の名前も入っていた。
物語は、よくある外地の日本人を描いた作品の一篇と言える
かもしれない。しかし本作は、1975年春の南ベトナムでロケ
ーションされているものであり、その市井の様子が正に実写
で撮されていることが重要と言えるものだ。
そこには、例えばパレスチナの作品で見られるような、戦争
の影に怯えながらも活況な現地の生活ぶりが描かれており、
それは通常の戦争映画で描かれるものとは全く異なるもの。
しかもそれが、本作では実写で撮影されているのだ。
その他にも本作には、戦闘で破壊された寺院の当時の姿(現
在は世界遺産に登録)や、南ベトナムの自然の風景など、貴
重な映像も数多く収められている。しかもこういう撮影状況
でありながら、内容がしっかりエンターテインメントである
ことも注目したい作品だ。
なお上映後に行われた監督との懇談で聞いた話では、女優の
タン・ランについて現ベトナム政府に問い合わせると、戦後
もベトナムに残ったが、何回か脱出を試みた後に死亡したと
いう回答だったとのこと。
ところが実際の彼女はアメリカへの脱出に成功して、現在は
在米ベトナム人社会のカリスマ的存在なのだそうだ。その彼
女も完成した映画は観ておらず、公式上映が行われる際には
来日も要請するとのこと。そこではスタッフ・キャストとの
再会を果たす計画もあり、ここにもドラマが生まれそうだ。
11月25日(日)
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