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On the Production
by 井口健二
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■第24回東京国際映画祭(1)
きと言いたいのか。その辺の態度の曖昧さというか、その態
度を明確にできない優柔不断さが、作品そのものの価値を下
げてしまっている感じもした。
実際には、映画の前半の移民労働者に対する差別的な発言の
部分がかなり生き生きと描かれており、そういう思想の制作
者なのかも知れないが…

『転山』“转山”
台湾在住の青年が兄の遺志を継いで自転車でチベットのラサ
を目指す行程を描いた中国映画。映画祭では、最優秀芸術貢
献賞を受賞した。
大学を卒業した主人公は、敬愛していた兄が自転車でラサに
向かう途中死亡したことを知らされ、その遺志を継ぐことを
決心する。それは今まで甘えて過ごしてきた自分自身への挑
戦でもあった。
しかしラサへの行程は厳しい山岳路や事故の起き易い悪路、
さらにチベッタン・マスティフの群れとの遭遇や食中毒など
様々な試練の連続となる。そんな行程でのいろいろな人々と
の出会いや別れ、それが主人公を成長させて行く。
この作品はプレス向け上映ではなく、一般上映で鑑賞した。
そのため上映後のQ&Aにも出席したが、撮影中の苦労話は
尽きなかったようだ。そしてそんな厳しい撮影で得られた素
晴らしい自然の景観が、見事に映画に表現されたと言うこと
もできる作品だった。
ただ、その撮影の厳しさが伺える一方で取って付けたような
事故のエピソードが必要だったかなど、ドラマ作りには疑問
を感じるところもあったもので、それはドキュメンタリーで
はないから作り物はあっても良いが、それが浮いてしまった
り違和感を持たせてはいけないようにも感じられた。
つまりは策を弄しすぎて却って誠実さが失われているような
感じで、勿体無い感じもしたものだ。

『アルバート・ノッブス』“Albert Nobbs”
19世紀のダブリンを舞台に、生きて行くために性別を偽らな
くてはならなかった女性の物語。2008年12月紹介『パッセン
ジャーズ』などのロドリゴ・ガルシア監督の作品で、映画祭
では主演のグレン・クローズが最優秀女優賞を受賞した。
主人公のアルバートは、内気だが真面目で気の利くベテラン
執事。ホテルに務めるアルバートには目当ての客も多く訪れ
ていたが、その執事には人には言えない秘密があった。それ
はその実体が女性であったということ。その時代に結婚を欲
しない女性が1人で生きて行くためには、「男性」になるし
かなかったのだ。
この主人公アルバートをクローズが演じて、それは正に圧巻
の演技を見せる。その演技は勿論女優賞に値するものだが、
でもそこは、何をいまさらクローズに授賞かと言う気分にも
なってしまうもので、僕はむしろ共演した女優の方に演技賞
を贈りたい気持ちにもなった。
なお本作もプレス向け上映ではなく、一般上映で鑑賞したも
のだが、実はこちらの上映ではその後のQ&Aはなし。つま
りこの上映に際して監督、出演者など関係者の来日はなかっ
たようで、これにはかなり寂しい思いがした。
今回の東京国際映画祭では、福島原発災害の影響で開催直前
まで審査員も決定しないなど、運営面での問題も多くあった
が、その中で敢えて受賞者の登壇しない受賞式が演出された
のも、今回を象徴していたと言えるのかも知れない。

(今回の掲載は各部門ごとの映画祭での鑑賞順で、以下は翌
日に続きます)

10月30日(日)
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