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On the Production
by 井口健二
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■真木栗の穴、アメリカばんざい、ダークナイト、ボーダータウン、マルタのやさしい刺繍、ハンコック、ブロードウェイ♪…、ブタがいた教室
徐々に初演の舞台が完成されて行く構成も巧みに描かれてお
り、それぞれの役柄がそれによって掘り下げられて行く構成
も見事なものだった。
それは、『コーラスライン』という作品の来歴のせいもある
のだろうが、普通のバックステージ物のドキュメンタリーと
は違った感じがして、ミュージカルへの興味を一層掻き立て
られるものにもなっていた。
因に、試写後のミニインタヴューによると、コニー役は1年
契約だった高良の後、親友のエレーンに引き継がれたとのこ
とだ。
『ブタがいた教室』
1990年、大阪の小学校で1人の新任教師が始めた実践教育、
「ブタを飼って、飼育した後、食べる」を巡って、生徒たち
が共に悩み討論を続けた姿を描いたドキュメンタリーに基づ
くドラマ作品。
物語は、「ブタを1頭食べてみる」という実践教育に憧れた
新米教師が、6年生の生徒たちと仔ブタを飼い始めることか
ら始まる。それは、ブタを育てて食べるという世間で普通に
行われていることを実践してみようという考えだったが…
生徒たちは自ら校庭の隅にブタ小屋を作ってしまい、さらに
仔ブタをPちゃんと名付けてペット化してしまう。この時点
で、教師の実践教育の目論見は崩れ、その結果は、最後にペ
ットを殺すことができるかという問題にすり替ってしまう。
はっきり言ってしまえば、この教師はこの時点で自分の間違
えに気付くべきだったし、それはもはや実践教育にはなりえ
なかった。しかしその教育は、子供たちの討論という別の側
面を持つことになる。
今回の映画化では、生徒役の子供たちには台詞の書かれてい
ない台本を渡して、実際に討論をさせてそこから物語を再構
成して行ったのだそうだ。そのやり方が演技を超えた子供た
ちの姿を描き出したのは確かだろうし、それがこの映画の見
所にもなっている。
それはこの映画の制作者たちが、ちゃんとこの物語の本質に
気付いていたことにも寄るのだろう。この物語は、ペットの
ブタを食べるかどうかではなく、子供たちが真剣に討論した
ことを描いているものだ。
映画の結末は実話を変えることはできないものだ。ただし、
本作はそこに重きを置いていない。多分、作劇上ここに山場
を持ってくる誘惑は大きかったはずだが、敢えてそれをして
いないことにも、この映画の制作者たちの見識を感じた。
それにしても、ブタがリノリュームの滑る床をよたよたと歩
く姿は可愛いものだし、子供たちとサッカーをしたり、鼻で
扉をこじ開けるといった姿は見事な演出となっている。この
演出を成し遂げたスタッフにも拍手を送りたいものだ。
出演は、新米教師役に妻夫木聡。他に原田美枝子、大杉漣、
田畑智子らが共演。監督は、『パコダテ人』などの前田哲。
脚本は小林弘利が担当している。
07月13日(日)
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