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On the Production
by 井口健二
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■裸足のギボン、デッド・サイレンス、ビルマ/パゴダの影で、窯焚、ジェリーフィッシュ、軍鶏、死神の精度、靖国
2003年10月2日付で、『味〜Dream Cuisine〜』という作品
を紹介している日本在住中国人の監督リー・インによる新作
ドキュメンタリー。
靖国神社の御神体は靖国刀(日本刀)であり、靖国刀匠と呼
ばれる刀匠たちの手によって昭和8年から12年間に8100振り
もの靖国刀が神社内で作られていたのだそうだ。映画は、そ
の刀匠の最後の一人である90歳の老人による靖国刀の再現の
過程を追いながら、現在の靖国神社が置かれている状況を検
証して行く。
そこでは、8月15日に旧帝国軍の軍服を来て参拝するグルー
プの姿や、小泉首相(当時)の発言、石原都知事の演説など
が紹介される。一方、合祀の取り下げを要望する台湾戦没者
の遺族の姿や、南京大虐殺の首謀者とされた将校の汚名を濯
ごうとする遺族の姿なども紹介される。
さらには「小泉首相を支持する」と書いたプラカードを持っ
ていても、星条旗を掲げていたために入場を拒否されるアメ
リカ人や、小泉参拝に抗議しようとして排除される中国人な
ども写し出される。これらの映像が特別なコメントを付すこ
ともなく羅列される。
映画の全体はどちらの側にも平等に描こうとしているように
感じられる。つまりこの作品は、論議の引き鉄にはなるかも
知れないが、この映画自体は排撃の対象になるものではない
ようにも見える。多分それが監督の狙いなのだろう。
ただし、僕には靖国問題の最大の論点とも思える戦犯の合祀
の問題が、南京問題に関わる部分で僅かに触れられている程
度でほとんど無視されるなど、いろいろ疑問に感じる点はあ
る作品だった。実は、東條由布子にインタヴューはしたが、
編集でカットしたという情報もあって、この辺は微妙だった
ようだ。
個人的には、僕の父は4人兄弟で全員出征したが無事帰還、
母には弟が2人いたが共に学徒の勤労奉仕に行っただけで、
親族に戦死したものはおらず、従って、僕自身は靖国神社に
は何の関わりもない。でも関係者だったらやはり一言は言い
たくなるのかな、そんな感じの作品だった。
なお本作の製作には、文化庁からの出資金を運用する独立行
政法人・日本芸術文化振興会の基金と、韓国・釜山国際映画
アジアドキュメンタリーネットワーク基金による助成が行わ
れている。日本側は公的基金の助成によって製作された作品
ということだ。
また本作は、全世界の作品が集まるアメリカ・サンダンス映
画祭において、本年1月18日の映画祭初日に“Yasukuni”の
題名でオープニング作品の1本として上映されたようだ。
日中合作映画の扱いで、中国、韓国での題名は『靖国神社』
となっている。
01月27日(日)
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