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On the Production
by 井口健二
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■第17回東京国際映画祭(コンペティション)
映画祭ではいろいろな国の作品が上映されるが、その中でそ
れぞれの国の国情が見えてくるのも有意義なことだ。もちろ
んドラマ作品であるから、真実からは誇張や隠蔽もあるだろ
うが、それでも垣間見える真実をしっかりと見届けたいと思
った。
『ダンデライオン』
映画は巻頭、自殺を示唆する映像からスタートする。この映
像は主人公の夢であることが次ぎに明らかにされるが、この
映像の持つ意味が最後まで不明のままに終わってしまう。
主人公は郡議会の議員を目指す父親を家長とする一家で暮ら
している。しかし父親との会話はなく、家族の揃う食卓も殺
伐としている。
そんな一家の近所に母娘の家族が引っ越し来る。彼はその家
の少女とつきあうようになるが、彼女の家にも問題は多い。
他にも親友はいるが、その家にも家庭内の問題はある。そし
てある事件が起こり…
アメリカが舞台で、アメリカの抱える家庭の問題が次々とえ
ぐり出されるような作品だ。といってもこのような状況は日
本でも考えられるし、家族という視点に置いたときに直面す
るドラマを描いている。
共感するところもなくはないし、良くできた作品だとは思う
のだが、ただ映画は妙に冷静に描かれていて、その辺で何か
作り物めいた感じがした。
もちろんフィクションだから作り物でも良いのだが、足の置
きどころというか、物語と作者の距離が違う感じがした。そ
れでは体験なしには何も描けないのかと言われそうだが、そ
うではなくて、その距離を埋める努力が本作では感じられな
かったものだ。
『大統領の理髪師』
コンペティション部門で最優秀監督賞と観客賞を受賞した作
品。
韓国の大統領官邸・青瓦台の近くに住み、朴大統領時代に青
瓦台の理髪師として、大統領を始め政権トップの髪を切り続
けた男の人生を描いた作品。
といっても、最初に大きくフィクションですと出る通り、こ
の映画はその政権内部の抗争を戯画化してコメディタッチで
描いている。しかしその描き方には毒が充満し、良くこれだ
け描けたものだとも思わせるが、それだけ観客への受けは良
いものになったようだ。
語り手は主人公の息子。この息子は父親と店に働きに来てい
た女性の間に生まれるが、これが李政権による四捨五入政策
(?)のおかげという辺りから毒が撒かれ始める。やがて父
親は秘密警察のトップの差し金で諜報機関の陰謀を摘発する
ことになり、その功績で青瓦台に呼ばれることになる。
そして仕事が始まるのだが、世間では北からの伝染病が蔓延
し始め、それによって近所の人々が処刑されたり、ついには
息子までもが逮捕されてしまう。そしてその息子を取り戻す
ため、父親の活躍が始まるが…
正直に言って日本人の僕らには判りにくいところもあるが、
腐敗して行く政権内部の様子などはどの国でも同じようなも
のだろうから、その意味では充分に楽しめる作品だった。監
督賞もうなずけるところだ。
11月05日(金)
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