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On the Production
by 井口健二
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■エイプリルの七面鳥、ゴースト・ネゴシエーター、沈黙の聖戦、ソウ、恋に落ちる確率、赤いアモーレ、アンナとロッテ、約三十の嘘
物語は、仲良く歌い遊ぶ幼い姉妹の描写から始まる。そして
一転して現代の老いた姉が妹を訪ねるシーンが続くが、姉の
態度には躊躇が見られ、再会した妹の態度はそっけない。そ
の間の2人に何があったのか。その歴史が綴られて行く。
ドイツ人の姉妹の運命を、そのドイツに侵攻されたオランダ
の作家が描いた物語。ナチスの政権下でその情報しか持たな
い姉と、オランダでユダヤ人も多くいる中で暮らす妹。その
ギャップは、僕らには完全には理解できないけれど、ここに
描かれる物語はその一端を見せてくれる。
もちろん大きな歴史の流れの中で、個々人の生き方は世情に
左右されるしかない面はあるのだけれど、お互いの持つ情報
の違いが、あんなにも良かった姉妹の仲を、いとも簡単に引
き裂いてしまう。そんな歴史の非情さを見事に描いた作品だ
った。
『約三十の嘘』
土田英生の同名の舞台劇の映画化。安物の羽毛蒲団を高値で
売りつける詐欺師のグループを描いた作品。土田と、『とら
ばいゆ』の大谷健太郎、そして『ジョゼと虎と魚たち』の渡
辺あやが共同で映画用の脚本を書き、大谷が監督した。
舞台は、大阪発札幌行きのトワイライトエキスプレス。その
列車のスーパー・スィート・ルームに5人の男女が乗り込ん
でくる。それは、年に数億稼ぐと言われた伝説の詐欺師グル
ープの再会だった。
しかし彼らは3年前、仲間の裏切りで稼ぎを持ち逃げされ、
リーダー格の男は自信を無くしてグループを解散してしまっ
たのだ。そして当時の2番手の男が、元リーダーも含めた再
召集を掛け、彼らは集まってきたのだが…。そこにもう一人
の参加者が現れる。
物語は、その行きの様子が描写された後、一転、詐欺に成功
して7千万円の札束を納めたスーツケースを囲んでの帰路が
描かれる。そしてそこでの仲間同士の疑心暗鬼、虚々実々の
展開が描かれる。
これを演じるのが、椎名桔平、中谷美紀、妻夫木聡、田辺誠
一、八嶋智人、伴杏里。あと2人ほどせりふのある役はいる
が、事実上この6人だけで進む物語だ。しかも舞台は列車の
中。見るからに舞台劇という感じの作品だ。
ただし、元の舞台では恋愛劇はなかったということだ。これ
に対して映画では、椎名、中谷、妻夫木の三角関係が微妙に
上手く描かれていて、全体として良くできた展開になってい
る。それのなかったという舞台劇が信じられないくらいだっ
た。
俳優の演技は、日本映画にしては概ね良好。多少引っかかる
部分も他のメンバーが上手くカバーしていた。もちろんナチ
ュラルでないことは日本映画の常だが、元々詐欺師の話とい
うことなので、その辺は了解しやすかった感じはある。
それと映像では、トワイライトエキスプレスの疾走するシー
ンが随所に織り込まれ、これが結構良いアクセントになって
いた。特に、途中で真昼に空撮されたシーンでは、完璧なパ
ンフォーカスで、まるでジオラマの中を走る模型のような映
像があり、これが見事。この部分は、鉄道ファン、模型ファ
ンにも見てもらいたい感じがした。
なお、映画に登場するスーパー・スィート・ルームは現実に
は無いということで、それも嘘っぽくて良い感じだった。
09月14日(火)
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