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On the Production
by 井口健二
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■第30回東京国際映画祭<コンペティション以外>
『ヤスミンさん』“Yasmin-san”
昨年上映された『アジア三面鏡:リフレクションズ』で行定
監督のパートのメイキングでありながら、途中から2009年に
亡くなったヤスミン・アフマド監督(『タレンタイム』)の
思い出にシフトして行くという不思議な作品。監督はコンペ
ティション部門の『アケラット』と同じエドモンド・ヨウだ
が、両作ともいろいろな要素が上手くかみ合っていない感じ
で、鑑賞しながら違和感が消えなかった。

『私のヒーローたち』“Adiwiraku”
2009年10月23日「東京国際映画祭」で紹介『タレンタイム』
と比較される学校対抗行事としての音楽発表会を背景にした
青春ドラマ作品。登場するのは貧困や家庭不和などの問題を
抱える地方の学校。そこで教鞭を執る女性英語教師の葛藤が
描かれる。国や宗教の違いもあるのかもしれないが、少し日
本とは違う環境での物語は、違和感を感じながらも青春映画
としては真っ当な作品だった。

『4月の終わりに霧雨が降る』
          “Sin Maysar Fon Tok Ma Proi Proi”
タイ東北部の地方都市を舞台に、バンコクから帰郷した青年
の思いが綴られる。ロッテルダム国際映画祭のコンペティシ
ョンに出品されたとのことだが、映画青年の監督が描く虚実
の境界が不明瞭で観ていて混乱するところが多かった。背景
を理解して観ればよいのだろうが、映画祭の立て込んだスケ
ジュールではその余裕もない。僕には手に余る作品だったと
いうことなのだろう。

 今年の「CROSSCUT ASIA部門」は、リマスター作品を除き
全8作で、その内の3本を鑑賞した。今回は観なかった作品
の中に評判の高いものが多く、ちょっと残念だった。

<TIFFティーンズ>
『マウンテン・ミラクル』“Amelie rennt”
喘息で苦しむ少女が奇跡を起こすという山頂の火祭りを目指
してアルプスに挑む。「24時間テレビ」などになりそうな題
材だが、それをユーモアを絡めて見事な青春映画に昇華して
いる。アルプスの景観も素晴らしく、その山々を彩る最後の
火祭りのシーンはVFXかもしれないが、それを上回る感動
が表現されている。さすがベルリン映画祭ジェネレーション
部門スペシャルメンションの作品だ。

『ハウス・オブ・トゥモロー』“The House of Tomorrow”
「宇宙船地球号」などの言葉でも知られる科学者バックミン
スター・フラーの設計住宅に住み、彼の教えをかたくなに守
る女性と、彼女が育て教育した孫息子の物語。純粋培養され
た少年がパンクロックに触れたことから騒動が巻き起こる。
この作品もいろいろな要素が巧みに織り交ぜられており、観
ているだけで楽しめた。主演はエイサ・バターフィールド。
祖母役でエレン・バースティンが登場する。

『リーナ・ラブ』“Lena Love”
都会に出ることを夢見る少女がいじめに遭い、ドラッグのフ
ラッシュバックやSNSの悪用などで闇の底に沈んで行く。
現代若年層の病巣が巧みな演出で描かれる。同様な作品では
ただ嫌味なだけで終る作品も多いが、本作はそれを見事な青
春ドラマに仕上げている。鍵となるトンネルのグラフィティ
などがサスペンスドラマとしても成立させているのは素晴ら
しかった。

 この部門は上映された全作品を鑑賞したが、いずれも素晴
らしい作品で、この様な映画を見て育った子供はきっと良い
若者になると思ったものだ。

<特別招待作品>
『空海―KU-KAI―(特別映像)』
来年2月公開予定の夢枕獏原作、チェン・カイコー監督によ
る原題は『妖猫伝』という作品の、10分間の特別映像が上映
された。内容は撮影の様子と監督の想いのようなものが紹介
されて、本編の物語などはさっぱりだったが、人海戦術の広
大な撮影風景には圧倒されるものがあった。本編の方の試写
は見せて貰えるかどうか判らないが、取り敢えず超大作であ
ることは確かなようだ。

『ミッドナイト・バス』
この作品は試写状も届いているので後日再び紹介するかも知
れないが、上映時間157分という長尺の作品。しかし観てい

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11月05日(日)
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