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On the Production
by 井口健二
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■キャリー、メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー、ザ・コール緊急通報指令室、ドラゴン・フォース、いとしきエブリデイ
ナ』などのマイクル・ウィンターボトム監督による2012年の
作品。
登場するのは父親が刑務所に入っている一家。受刑者の妻で
ある母親と、3歳、4歳、6歳、8歳4人の子供たちの普通
とは少し違う日常が描かれて行く。
物語の始まりは、早朝4時の一家の様子。女の子供2人を親
戚に預け、母親と男の子供2人はバスや列車を乗り継ぎ刑務
所へ面会に向かう。その面会で父親は長男に「(家を守る)
家長はお前だ」と告げ、長男はそれに緊張する。
末娘が初めて幼稚園に上がる日、心配な父親は家に電話を架
ける。交代で「大好き」と告げる子どもたち。女の子供2人
を連れた次の面会で父親に会った末娘は「パパ、どこにもい
かないで」と泣きじゃくる。
その日帰ってくると祖母が見ていたはずの兄弟がいない。長
男は父親の猟銃を持って森に行っていた。夜半にうさぎを捉
えて帰ってくる息子。母親は叱るが、本来は狩りで手本を示
す父親の不在は、母親には埋められない。
こんな一家の日々が5年間に亙って描かれて行く。なお登場
するのは実の4人兄弟姉妹で、撮影は2007年から2012年まで
掛けて、年に2回ずつ兄弟姉妹の実際の成長に合わせて行わ
れている。
例えば狩猟の話など、僕らには俄かには理解できないものも
ある。刑務所内の様子も日本とは違うのかもしれない。しか
し父親不在の家庭の様子はなるほどと思わせるものが描かれ
ており、それは僕らにも切実に分かるものだ。
ウィンターボトム監督の作品では、2002年11月紹介の『24
アワー・パーティ・ピープル』は音楽ドキュメンタリー風、
2004年5月紹介『CODE46』はSF、2011年2月紹介の
『キラー・インサイド・ミー』は犯罪小説の映画化、『トリ
シュナ』はインドに舞台を移した古典文学のリメイクと、常
に新しい題材に挑戦しているが、本作はさらに実験的だ。
しかも撮影期間は5年間、前2作などとは並行して撮影して
いるもので、その間をブレずに作品を完成させている。特に
撮影前までは素人の子供たちの姿が一貫して演出、撮影され
ているのも見事だった。
出演は、ウィンターボトム監督の1999年『ひかりのまち』で
も共演しているシャーリー・ヘンダースンとジョン・シム。
なおヘンダースンは『ハリー・ポッター』シリーズの嘆きの
マートル役でも知られている。
また音楽を『ひかりのまち』も担当したマイクル・ナイマン
が手掛けて、心にしみる見事な楽曲を提供している。
公開は11月9日から、東京はヒューマントラストシネマ有楽
町ほかでロードショウされる。
10月20日(日)
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