ID:47635
On the Production
by 井口健二
[460048hit]

■コズモポリス、野蛮なやつら、ふたたびの加奈子、コドモ警察、食卓の肖像、フリア/よみがえり少女、孤独な天使たち、シュガーマン
『フリア/よみがえり少女』“Dictado”
昨年3月紹介[●REC]シリーズや2008年9月紹介『永遠
のこどもたち』など、常に鮮烈な衝撃を提供してくれるスパ
ニッシュ・ホラーの最新作。
主人公は、妻と共に小学校に勤務する男性教師。しかし夫婦
はなかなか子供に恵まれず、今回も一時休職していた妻は現
場復帰の日を迎える。そんな2人が出勤した学校の入口で、
主人公は1人の中年男性に呼び止められる。
その男性は主人公が幼い頃に兄弟のように育った友人で、男
性は彼に7歳の娘に会ってくれと懇願する。しかし主人公に
は特別な思いがあるらしく、その願いは拒絶されてしまう。
そして帰宅した男性は…
その男性のニュースを見た主人公は妻と共に男性の家に向か
い、そこで1人の少女と出会う。そして愛くるしい少女の姿
に魅了された妻は、身寄りのない少女を引き取ることを主人
公に求めるが、それが主人公を恐怖に陥れて行く。
原題は「綴り方」の意味で、少女が何気なく歌う「綴り方の
歌」が、主人公が幼い頃に犯した重大な罪に対する決定的な
事実を伝えて行くことになる。その事実がフラッシュバック
によって徐々に明らかにされて行く。
スパニッシュ・ホラーの中には、1977年『ザ・チャイルド』
に始まる無垢な子供をテーマとする伝統的な流れがあるのだ
そうで、本作でも少女が行う何気ない仕草などが、主人公に
恐怖を与える展開が描かれている。
それが邦題にもなっている「よみがえり」現象を暗示して行
くものだが、本作においてはそれが超常的なものか否か、そ
の辺を微妙に描いているのも巧みなところで、敢えてスパニ
ッシュ・ホラーに一石を投じる作品とも言えそうだ。
出演は、2008年7月紹介『ボーダータウン・報道されない殺
人者』に出ていたというファン・ディエゴ・ボトと、2012年
2月紹介『私が、生きる肌』に出ていたというバルバラ・レ
ニー。そして少女役を本作で大抜擢されたマヒカ・ペレスが
演じている。
物語は、2011年に“Eva”というSF映画の脚本も手掛けて
いる劇作家セルジ・ベルベルの原案に基づくもので、本作は
その原案から、2011年1月紹介『悲しみのミルク』にベルリ
ン金熊賞をもたらした製作者のアントニオ・チャベリアスが
脚色、監督した。
上記の『桜、ふたたびの加奈子』に続けて「よみがえり」と
いうか、「生まれ変わり」がテーマの作品で、似たテーマが
続くのも不思議な感じがするものだ。

『孤独な天使たち』“Io e te”
1987年『ラストエンペラー』で米アカデミー賞の監督賞を含
む10部門を独占したイタリアの名匠ベルナルド・ベルトルッ
チ監督が、2003年『ドリーマーズ』の後に病魔に蝕まれ一時
は引退も考えたという状況から復帰した10年ぶりの作品。
主人公は15歳の少年。内向的で友達もいない少年には、学校
行事のスキー旅行が重荷になっている。しかし両親には期待
され、参加を表明した時には大喜びされてしまうのだが、彼
には密かに巡らした別の計画があった。
それは彼の住むアパルトマンの地下室で、普段は人の出入り
の全くない物置部屋に食料などを持込み、旅行期間の1週間
をそこに隠れ住むというもの。そして旅行費用に貰った金で
準備を整え、首尾よく隠れることに成功するのだが…
ネット三昧などで気楽に過ごし始めた物置部屋に闖入者が現
れる。それは父親が前妻との間に授かった義姉で、主人公の
母親との折り合いが悪く家出した女性。しかも彼女は麻薬に
犯され、それを抜くための禁断症状の最中だった。
こうして時々架かってくる母親の電話には巧みに応対して、
のんびり過ごすはずだった1週間は、突然の修羅場と化して
行くことに…。そんな社会の入口で逡巡する若者が第1歩を
踏み出す成長の姿が描かれる。
オスカー受賞作や1972年『ラストタンゴ・イン・パリ』など
で知られるベルトルッチ監督には、2003年作や1996年『魅せ
られて』のような若者を主人公にした系譜もあり、本作はそ
の系譜に載るもののようだ。

[5]続きを読む

02月20日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る