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On the Production
by 井口健二
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■第24回東京国際映画祭(1)
ではなかったようだ。
『デタッチメント』“Detachment”
背景は現代のニューヨーク。その街で荒れ切った公立高校に
赴任する代理教師を主人公に、アメリカの教育現場が直面し
ている様々な問題を描いたアメリカ作品。映画祭では最優秀
芸術貢献賞を受賞した。
主演はエイドリアン・ブロディ。共演者には2010年5月紹介
『ブレイキング・バッド』のブライアン・クランストン、同
12月紹介『かぞくはじめました』のクリシュティーナ・ヘン
ドリック。さらにルーシー・リュー、ジェームズ・カーン、
ブライス・ダナーら錚々たる顔触れが並んでいる。
巻頭にはアニメーションが飾られる一方で、途中には教師の
インタヴュー映像がモノクロで挿入されるなど、かなり凝っ
た演出も施されている。この辺が芸術貢献賞の所以でもあり
そうだ。
そして主人公が直面する様々な問題が提示されるが、それら
が綺麗事ではなく、さらに主人公自身も完璧ではないなど、
正にリアルな教育問題が描かれている。そこには当然のごと
くHIVやレイプなども描かれるが、それらが生理的な嫌悪
感を越えた現実として描き切られていることが、この作品の
崇高さにも繋がっている感じがした。
そしてそれら物語を、上記の俳優たちが見事なアンサンブル
で演じ切っている。正に社会派の問題作と言えるもので、個
人的にはグランプリでも良かったと思える作品だった。
『トリシュナ』“Trishna”
トマス・ハーディの古典小説「ダーバヴィル家のテス」を、
2011年2月紹介『キラー・インサイド・ミー』などのマイク
ル・ウィンターボトム監督がインドに舞台を移して映画化し
たイギリス作品。実は、スケジュールの都合で日本語字幕の
付かない上映で観ることになったが、ヒンドゥー語の台詞に
は英語字幕が付くし、インド人の英語は聞き取りやすいので
鑑賞に支障はなかった。
物語の背景は現代。インドの宮殿のようなホテルを舞台に、
ホテルの経営者の息子と、そのホテルにメイドとして就職し
た農村出身の女性との恋が、急激に変化する社会情勢や農村
と都会の生活の違いなどによって翻弄されて行く。
原作は19世紀末のイングランドを舞台にしていたものだが、
その当時の状況と現代のインドの状況が似ているということ
なのかな。物語自体は余り違和感もなく受け入れられるもの
になっていた。
ただまあ元々のお話がああいうものなので、その点は変えら
れないし、結局はそういう物語が展開されてしまう。それは
原作物だから仕方がないが、現代ならもう少し変わってくる
のではないか…という感じはしてしまった。
主演は、『スラムドッグ$ミリオネア』などのフリーダ・ピ
ント。悲劇のヒロインを見事に演じていた。
なお背景にはインドの古い宮殿や寺院なども登場して、観光
映画的に楽しむこともできたが…。
『別世界からの民族たち』“Cose Dell'Altro Mondo”
移民問題が21世紀最大の社会問題とも言われるヨーロッパの
現状を背景にしたイタリア作品。その社会問題をファンタス
ティックな偶意に満ちた風刺コメディに仕立てている。
舞台は、イタリア北東部のそれなりに富裕層の暮らす街。そ
の街では移民労働者の割合も比較的高かったが、彼らはみな
合法的な居住者だ。そして彼らの雇主でもある元からの住人
たちは、そんな移民労働者たちを差別的な目で見詰め、嫌み
で皮肉なお笑いのネタにもしていた。
ところがある日、そんな街から移民労働者の姿が消え始め、
それまで彼らに頼り切っていた人々の生活が混乱し始める。
それは彼らを皮肉の目で観てきた人々にも彼らの存在を再確
認させることになって行くが…
今まで差別してきたものがいざ居なくなると…。そんなドタ
バタのコメディは有り勝ちのものだろう。それに対して本作
が何か新規な見識を持っているかというと、それは余り感じ
られなかった。
結局、この映画の制作者は何を言いたかったのか。移民労働
者の存在に反対なのか、それとも彼らを正当に受け入れるべ
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10月30日(日)
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