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On the Production
by 井口健二
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■ピュ〜ぴる、シリアスマン、お家をさがそう、ランウェイ☆ビート、ヨギ&ブーブー、四つのいのち、ブラック・スワン+ニュース
それから本作にはLooney Tunesの短編が併映されるが、今回
の作品は“Rabid Rider”。昨年9月26日付でタイトルのみ
報告した作品が観られる。因に、題名はSegwayのような乗物
のことのようで、それを手に入れたコヨーテがいつものよう
な失敗を繰り広げるものだ。

『四つのいのち』“Le quattro volte”
昨年の東京国際映画祭natural TIFF部門で上映された作品が
一般公開されることになり、改めて試写が行われた。
イタリア南部カラブリア州の山間部。丘の上に城塞都市が聳
え、その周囲を森が囲んでいる。その一画では伝統の炭焼き
が行われており、その土饅頭のような小山を箆で叩き固める
音が周囲に響き渡っている。
その音が聞こえる草地には山羊の群れが放牧されており、牧
羊犬が忙しく走り回って群れ纏めている。その群れに付き添
う羊飼いは高齢で、時折咳き込んでは息苦しそうだ。そして
帰宅した老羊飼いは、霊験あらたかな教会の埃を水に溶いて
飲下し床に就く。
そんな日常の中で繰り広げられる老人と仔山羊、祭りの主役
となる樅の大木と木炭、四つの命の誕生と再生が描かれる。
さらにそこには村が行う2つの祭りの様子なども紹介され、
それらが静謐な長廻しの映像で描かれる。
作品の中に特定の台詞はなく、従って映画は無字幕。ただ豊
かな自然の営みが描かれる中で、その営みに則したドラマが
展開されて行く。それにしてもイタリア南部の土地柄でこん
なに雪が降るとは思わなかった。そんな自然も見事に描かれ
ている。
脚本監督を手掛けたミケランジェロ・フラマルティーノは、
ミラノ工科大学建築科に入学した後、映像に転じたとのこと
で、ある種の技術的な興味を持って作品が描かれているよう
なところもある。それが意外と人間や自然の営みに通じてい
るものだ。
出演者は、皆そこに住む住人たちだそうで、唯一プロと言え
るのは映画の前半で活躍する牧羊犬。驚異的な長廻しの撮影
の中、劇中最もドラマティックとも言えるシーンを見事に演
じて、カンヌ国際映画祭では活躍した犬に与えられるパルム
ドッグ賞を受賞したそうだ。
なお昨年の映画祭で鑑賞したときには、「四つのいのち」の
組み合わせが多少気になったが、原題をexcite翻訳で直訳す
ると「四つの時間」となるようで、まあそんなニュアンスの
作品のようだ。
とにかく静かな映画で、natural TIFF部門で上映するのに相
応しい作品であったことは間違いない。

『ブラック・スワン』“Black Swan”
ピョートル・チャイコフスキー作曲のバレエ「白鳥の湖」を
モティーフに、その主役の座に賭けた女性の姿を描き、主演
のナタリー・ポートマンがゴールデングローブ賞などすでに
20冠以上を達成している作品。
主人公はニューヨークの名門バレイ団に所属する若い女性。
そのバレイ団ではプリマドンナが今シーズン限りで引退する
ことになり、来シーズンに向けて新しいプリマの座を競うオ
ーディションが行われていた。
そのシーズンの開幕を飾るのは「白鳥の湖」。1人のプリマ
が清純な白鳥と妖艶な黒鳥を演じ分けることが至難の業と言
われる名作が、新プリマに科せられた課題となっていた。そ
して主人公はその有力候補の1人だったが…
優等生タイプの主人公には白鳥は完璧に踊れても、黒鳥が課
題とされてた。一方、奔放なタイプのライヴァルは黒鳥を完
璧に踊れる素質を持っていた。そして配役発表の日が近づく
中で主人公には精神的な重圧がのしかかってくる。
この種のバックステージものでは、最近だと『オペラ座の怪
人』が頭に浮かんでくるところだが、その作品の歌唱に対し
て本作はダンス。そしてミュージカル作品がどちらかという
とロマンスに重きを置いたのに対して、本作ではホラーの要
素もたっぷり織り込んだ作品になっている。
しかもそれが心理学的な背景に基づくかたちで描かれている
から、そこにはストレス社会の現代に生きる人々のほぼ全員
が感じているような恐怖が描き出されているものだ。

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01月23日(日)
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